光瀬龍

光瀬 龍（みつせ りゅう）

日本のSF作家として知られる光瀬龍（1928年～1999年）は、本名を飯塚喜美雄といい、結婚を機に妻の姓に改姓する以前は千葉という旧姓でした。

生涯と文学への道

光瀬龍は1928年3月18日、東京府北豊島郡南千住に生を受け、1933年から1945年3月にかけて板橋区練馬南町で育ちました。少年時代、東京市開進第三国民学校の5年生だった頃、海野十三の短編集『十八時の音楽浴』に触れ、その後の文学的な歩みに強い影響を受けたといいます。

太平洋戦争末期の1945年4月、川村学院中学校在学中に岩手県胆沢郡前沢町（現在の奥州市）へ疎開。岩手で過ごした期間は17歳から20歳までの約3年間でしたが、本人は「岩手育ち」を自称するほど、青春期の貴重な時間を過ごしたこの地に愛着を抱いていました。前沢町は両親の出身地でもあり、光瀬にとって特別な「郷里」という意識があったようです。また、自らの家系が父方では桓武平氏千葉氏、母方では東北の安倍氏の子孫であると称していたことも、この地への思いを深める要因の一つであった可能性があります。

一関中学校（現在の一関第一高等学校）を修了後、上京して大学進学を目指しますが、その道のりは必ずしも平坦ではありませんでした。旧制東京高等学校の受験を途中で断念し岩手に戻った後、旧制一関中学を卒業。再び上京し、東洋大学、明治大学と入学するも、いずれも短期間で自主退学します。その後、川村高等学校に編入して卒業し、東京農工大学の受験放棄を経て、東京教育大学農学部に入学。最終的には理学部生物学科動物学教室に転じ、1953年に卒業します。さらに文学部哲学科に編入しますが、こちらは中退しています。

作家活動の開始と広がり

大学卒業後、光瀬龍は柴野拓美が主宰する同人誌「科学創作クラブ」に参加し、その機関誌『宇宙塵』に「光瀬龍」のペンネームで作品を発表し始めます。このペンネームは、当時愛読していた井上靖の短編小説「チャンピオン」に登場するボクサーの名前に由来するとされています。それ以前は「菊川善六」名義で主に詩を創作していました。

光瀬の作風は極めて多岐にわたります。代表的なものとして、壮大な宇宙を舞台にした「宇宙年代記」シリーズがありますが、これに留まらず、歴史改変SFや、史実と虚構を織り交ぜた歴史・時代小説を数多く手掛けています。また、少年少女向けのジュブナイルSFにおいても重要な足跡を残し、福島正実らが設立した「少年文芸作家クラブ」に参加。福島の没後も活動を続け、「創作集団プロミネンス」と改称して後進の育成にも関わりました。

さらに、自然観察家としての顔も持ち合わせており、動物の生態観察に基づいたエッセイや図鑑も執筆しています。特に、長年の観察記録を基に独自の境地を追求した『ロン先生の虫眼鏡』シリーズは、幅広い読者に支持され、漫画化もされるほどの人気を博しました。この漫画版に登場するロン先生のモデルは、紛れもない光瀬龍本人です。

主要な小説作品としては、神話的人物たちの壮絶な闘争を描いた長編SFの金字塔『百億の昼と千億の夜』が挙げられます。この作品は、それに先行する『たそがれに還る』や後続の『喪われた都市の記録』と共に、当時の日本のSFとしては稀に見る長大さと雄大なスケールで賞賛されました。

その他の活動と評価

光瀬は高校教諭を経て、1967年からは作家活動に専念しました。晩年には朝日カルチャーセンターで「大衆文芸の書き方」講座を担当したり、岩手県の文芸誌『北の文学』の編集委員を務めるなど、後進の指導にも力を注ぎました。彼の指導を受けた作家の中には、子母澤類や平谷美樹などがいます。

およそ40年間にわたる精力的な創作活動を展開したにもかかわらず、生前に文学賞を受賞することは一度もありませんでした。しかし、その功績は高く評価され、没後となる1999年には、日本SF作家クラブより第20回日本SF大賞特別賞が贈られています。光瀬龍は、SFというジャンルを深く掘り下げると同時に、その枠を超えて歴史、自然、少年少女の世界まで、幅広い領域で独創的な作品を生み出し続けた作家として、今なお多くの読者に記憶されています。

死没後も、自伝的エッセイや未発表習作をまとめた『光瀬龍 SF作家の曳航』、ジュブナイル作品集などが刊行され、その豊かな創作世界が再評価されています。

主な映像化作品には、NHK少年ドラマシリーズで放送された『夕ばえ作戦』『明日への追跡』などがあります。また、萩尾望都や加藤唯史といった著名な漫画家によって、その作品が漫画化されています。

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