児童買春ツアー

児童買春ツアーについて

児童買春ツアー（Child sex tourism, CST）は、商品化された児童性的虐待であり、子供に対する買春を目的とした旅行です。国際連合の児童の権利に関する条約では、18歳未満のすべての者を「子供」と定義しています。児童買春ツアーは、被害児童に性感染症（HIV/AIDSを含む）や薬物依存、妊娠、栄養失調、社会的な疎外、そして死などの深刻な心理的・身体的影響をもたらすことが指摘されています。

この問題は、数十億ドル規模のグローバルなセックスツーリズム産業の一部であり、商業的児童性的搾取という大きな問題の一部です。世界では約200万人の子供が児童買春ツアーの被害に遭っていると推定されています。多くの場合、売春をさせられる子供たちは、誘拐や拉致によって性的奴隷のような境遇に置かれています。

加害者のタイプ

児童を商業的および性的な目的で利用する者は、動機によって分類されます。ペドフィリアは児童買春ツアーと関連付けられることが多いですが、彼らが利用者の大多数ではありません。加害者は大きく2つのタイプに分けられます。

選択的加害者：子供との関係を築こうとする、性感染症のリスクが低いと考える、あるいはその両方の理由から、特に子供を好むタイプです。
状況的利用者：積極的に子供を探すのではなく、買春相手が子供であることに頓着しないタイプです。彼らは、性行為の前に売春者の年齢を確認することに関心がない場合があります。

児童買春の加害者は、インターネットを利用して買春ツアーの機会を探したり、最も脆弱な立場にある子供が見つかる場所（一般的に低所得地域）の情報を交換したりします。多くの政府は、自国外で行われる児童性的虐待に対して、国民を起訴することを可能にする法律を制定しています。しかし、児童売春ツアーを罰する法律は状況的な加害者を思いとどまらせる効果がある一方で、特に児童を搾取する目的で旅行するペドフィリアを抑止するのは容易ではありません。

児童買春ツアーの背景

児童買春ツアーは、貧困、武力紛争、急速な工業化、人口の爆発的な増加と密接に関連しています。特に、ラテンアメリカや東南アジアでは、ストリートチルドレンが最後の手段として売春に走ることがよくあります。また、弱い立場にある子供たちは人身売買業者による搾取の標的になりやすい状況です。南アフリカ、アメリカ、タイ、カンボジア、インド、ブラジル、メキシコなどは、児童性的搾取の主要な地域として知られています。カンボジア、ミャンマー、フィリピン、タイでは、被害児童の年齢層は6歳から17歳までと幅広く、特に幼い子供たちが被害に遭いやすいことが問題です。

国際的な児童買春ツアー参加者の出身国は地域によって異なりますが、需要は通常、ヨーロッパの豊かな国々、北アメリカ、ロシア、日本、オーストラリア、ニュージーランドなどの先進工業国からのものが多いです。例えば、タイでは、オーストラリア人が起訴されたセックスツーリズム客の中で最も多いグループであることが確認されています。また、ケニアの沿岸地域では、加害者の30%が現地住民、70%が外国人であり、イタリア、ドイツ、スイスなどからの観光客が多いことが報告されています。

タイでは、児童売春の正確な数は不明ですが、売春者の40%を児童が占めているとの報告があります。カンボジアでは、売春者の約3分の1が18歳未満と推定されており、インドでは約120万人の子供が売春に関与していると考えられています。近年、ブラジルはタイを抜いて世界で最も人気のあるセックスツーリズム地となっているという報告もあります。

児童を対象としたセックスツーリズムは、人身売買者にとって大きな経済的動機となっています。人身売買は推定120万人の児童被害者に影響を与えており、国連薬物犯罪事務所（UNODC）は、全世界の人身売買の79%が性的搾取目的であると述べています。これは世界で最も急速に増加している犯罪活動の一つです。

問題への対応

国際連合児童基金（UNICEF）は、性的搾取の事例に対して地域社会が行動を起こすことに消極的であることを指摘しています。これは、性的活動がしばしば私的な問題とみなされるためです。また、インターネットはツアー先や取引方法についての情報共有を容易にするグローバルネットワークツールとして機能しています。アメリカ合衆国の国内法は児童が関与するケースに対して比較的厳しく、アメリカ国民または永住者が未成年者との違法行為を目的として海外へ旅行する場合、法的責任を問われることになります。

2016年には「国際メーガン法」が成立し、児童を対象にした性犯罪者のパスポートにマーキングしたり、海外渡航を渡航先国に通知したり、訪米する性犯罪者についても出発国に同様の通知を求めることが義務付けられました。これは、性犯罪者の登録制度が抱える問題を改善する一歩とみなされています。

ブラジルが目的地国として上位に位置する要因の一つに、アマゾン地域におけるスポーツフィッシング業界が隠れ蓑として利用されていることがあります。外国人所有の旅行会社が、釣り旅行を装って児童買春ツアーを組織しているという告発も報告されています。

ウェブカメラを介した児童買春ツアー

連邦捜査局の推計では、40,000の公開チャットルームに常に750,000人の加害者がオンライン上に存在しているとされています。アムステルダムでの調査では、3DCGモデルの少女に金銭を払って性的な行為をさせようとしたインターネット利用者が多数発見され、その中にはオーストラリア、カナダ、ドイツ、ガーナ、インド、イタリア、モーリシャス、オランダ、南アフリカ、トルコ、イギリス、アメリカなどの国に所在する者が含まれていました。NGOなどの団体が、ネットを通じた児童買春ツアーに対する積極的な捜査を各国政府に求めています。

世界的な対応

近年、児童買春ツアー犯罪の起訴件数が増加しています。少なくとも38か国は、自国民を対象とした児童性的虐待犯罪の海外での犯行に対して起訴を可能にする域外管轄権を有しており、その他の国も同様の法律を持っています。児童の権利条約選択議定書には、締約国に対してこれらの行為が「その重大性を考慮した適切な刑罰によって処罰される」法律を自国で制定することを求めています。

[児童買春]]ツアーへの対応として、非政府組織（NGO）、観光業界、政府が問題に取り組んでいます。世界観光機関]は[[児童買春ツアーに対抗するためのタスクフォースを設置し、旅行・観光業界行動倫理規範（コードプロジェクト）を作成しました。多くの旅行会社がこの行動規範に署名し、問題解決に取り組んでいます。

国際的な法執行活動

アメリカ合衆国移民・関税執行局 (ICE) は、児童買春ツアー者の捜査と逮捕に積極的に関与しています。ICEは「オペレーション・プレデター」を開始し、国内外の児童性的虐待者を多数逮捕しました。ICEは捜査手法について詳細を公表していませんが、身分秘匿捜査員、インターネット上のおとり捜査、高度な技術の使用などが用いられている可能性が指摘されています。

また、現地のICE捜査官は、タイ王国警察と協力して容疑者の行動を監視しており、イギリス警察や児童搾取対策オンライン保護センター（CEOP）も児童買春ツアー者の監視と起訴に積極的に取り組んでいます。国際刑事警察機構も犯罪者の追跡に協力しています。

地域ごとの取り組み

アジア

カンボジア：処女の売買が深刻な問題であり、多くのアジア人や他の外国人男性が児童買春ツアーのために訪れています。1996年に公布された法律には、児童の商業的性的搾取に対する法規が含まれています。
中国：政府は強制労働や商業的性行為、児童買春ツアーに対する需要の低下に十分な対策を講じていないと報告されています。
インドネシア：都市部や観光地で児童買春ツアーが広まっており、刑法では国内外で子どもの保護法や刑法に違反した場合に罰せられます。
韓国：韓国人男性は長い間、アジアにおける児童買春ツアーの主な原動力となっており、カンボジアとフィリピンでの児童売春が特に懸念されています。
ラオス：刑法では人身売買の定義を定め、18歳未満の児童に対して上記の行為を行った場合は、詐欺、脅迫、強制、債務奴隷がなくとも人身売買とみなされます。
モンゴル：韓国人や日本人観光客が児童買春ツアーを行っていると報告されています。刑法では16歳未満の組織的な売春を禁止しています。
フィリピン：児童性的虐待旅行は深刻な問題で、特に東北アジア、オーストラリア、ヨーロッパ、北米からの観光客が児童と性行為を行っています。
タイ：政府機関とNGOが協力して売春宿を摘発し、児童買春旅行の認知度を高めて防止する取り組みが行われています。

北アメリカ

バルバドス：政府は商業的な性行為の需要を減らすための顕著な行動はとっていませんが、児童買春ツアーに関する公的なコメントは増えています。
ドミニカ共和国：沿岸のリゾート地域で児童買春ツアーが絶えず行われていますが、現行法には整合性の欠如や抜け穴があると指摘されています。
キューバ：政府は児童買春ツアーの問題を認識しておらず、商業的な性行為の需要を減らすための明確な取り組みも行っていませんが、観光業界の関係者に対して買春ツアー客と思しい者を特定し報告する方法についての訓練が行われたとされています。
エルサルバドル：性的搾取を受けている子供の3分の1が男の子であり、多くは北アメリカの国々に拉致されて送られています。
ジャマイカ：リゾート地周辺に児童買春ツアーの問題が存在するとされています。
トリニダード・トバゴ：児童買春ツアーに関する報告や起訴はないとされています。

南アメリカ

アルゼンチン：児童買春ツアーが問題であり、特に国境地帯やブエノスアイレスでの問題が顕著です。児童買春ツアーを明示的に禁止する法律はありません。
ブラジル：児童買春ツアーが深刻な問題であり、特に北東部の観光地域で多く発生しています。児童買春ツアー者の多くはヨーロッパから来ており、一部はアメリカからも来ています。
コロンビア：刑法では買春ツアーの組織化や促進を禁止していますが、児童買春ツアー者の起訴や有罪判決の報告はありません。
エクアドル：児童買春ツアーは主に都市部やテナ市、ガラパゴス諸島などの観光地域で発生しています。
ペルー：児童買春ツアーはイキトス、マドレデディオス、クスコなどで見られ、政府の権限が及ばない地域で人身売買者が違法に活動していると報告されています。
ウルグアイ：政府当局は、ホテル従業員や観光業界全体の関係者に対して児童買春ツアーについての意識を高める取り組みを行っています。

管轄外司法権

子供との関係で外国で不正な性行為を行う場合、境外の法域において国民を起訴する特定の域外管轄権を持つ国が増加しています。これは、自国民が海外で児童性犯罪を犯した場合でも、自国で処罰できるようにするものです。

各国の対応例

オーストラリア：外国で児童と性行為を行う市民や居住者に対して刑務所刑を規定する法律を導入しました。
カナダ：児童性的観光に関連する犯罪について、海外で犯された罪をカナダ国内で逮捕・起訴することを可能にする法律を導入しています。
香港：児童ポルノ禁止条例により、児童性的観光に関連する犯罪に域外管轄権が与えられています。
イスラエル：刑法では、イスラエル市民が外国で犯した児童の売春や人身売買に関わる犯罪を処罰します。
日本：児童買春に関与したり、児童ポルノ商品を販売したり、外国の児童を強制的に売春させる目的で他国へ送る者を処罰する法律があります。
ニュージーランド：市民および居住者が他の国で児童と性的行為または活動を行うことを犯罪としています。
ロシア：刑法では、ロシア国民が国外で未成年者から性的サービスを受けることを処罰しています。
シンガポール：シンガポール市民または永住者がシンガポール外で行った商業的な性交渉を処罰します。
スイス：連邦警察庁が児童買春ツアーへの取り組みを強化し、刑法で国外での児童性犯罪を処罰します。
韓国：法律で、海外で児童と性的な関係を持った国民を処罰することが規定されています。
イギリス：性犯罪法により、海外での児童に対する性犯罪を行った市民および居住者をイギリスで起訴できます。
アメリカ合衆国：PROTECT法により、外国で18歳未満の者と違法な性行為を行うアメリカ市民または永住者を起訴できます。
* 欧州連合：指令により、EU加盟国は国外で犯された児童性犯罪について自国国民を起訴するべきとされています。

児童買春ツアーは、世界中で深刻な問題となっており、その根絶のためには、各国の協力と継続的な取り組みが必要です。

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