全日空アカシア便ハイジャック事件

全日空アカシア便ハイジャック事件

1970年8月19日、名古屋の小牧空港を離陸し、札幌の千歳空港へ向かっていた全日本空輸175便、通称「アカシア便」（ボーイング727型機）が、機上で武装した男によってハイジャックされた事件です。この事件は、同年3月に発生した「よど号ハイジャック事件」を契機として制定された「航空機の強取等の処罰に関する法律」、いわゆるハイジャック防止法が国内で初めて適用された事例としても特筆されます。

事件発生と展開

全日空175便が離陸後、当時24歳だった犯人の男は拳銃を手に操縦室に侵入し、機体を乗っ取りました。犯人は自身の要求実現のため、航空自衛隊浜松基地への緊急着陸を指示。機体は指示に従い、浜松基地に着陸しました。

着陸後、犯人は基地側に対し、望遠機能付きのライフルと多数の弾薬（100発）、さらにはガソリン入りのポリタンク2本といった物品の提供を要求しました。また、乗員乗客合計89名のうち、57名を解放することを許可しましたが、残りの乗客を乗せたまま再び離陸することを求めました。

交渉と制圧

緊迫した状況下、機長は犯人の隙を捉え、所持している拳銃が実は玩具であることを外部、すなわち地上の警察や関係者へ密かに伝えました。また、犯人との交渉においては、残された乗客の中に妊婦がいると偽り、その乗客を降ろすための時間稼ぎや機会を作るべく図りました。機長は「妊婦を下ろす」という内容のメモを外部に落とし、これを受け取った警察当局は犯人制圧の計画を実行に移しました。

犯人が機体のドアを開けたその瞬間、待ち構えていた警察官らが機内に一斉に突入しました。犯人はこの不意を突かれ、抵抗することなくその場で取り押さえられました。

犯行動機と裁判

犯人の供述によれば、その動機は極めて個人的なものでした。妻の妹との駆け落ちによる無理心中が未遂に終わり、さらにその女性とも連絡が取れなくなったことから人生に深い絶望を感じていたといいます。そして、ハイジャックを起こすことで警察官との銃撃戦を引き起こし、その結果として射殺され、楽に死ぬことができると考えた末の犯行でした。

事件後、犯人は逮捕・起訴されました。1972年4月28日、静岡地方裁判所は、この事件がハイジャック防止法第1条第1項に該当すると判断し、求刑懲役13年に対し、懲役7年の判決を言い渡しました。これは同法が初めて適用された判例となりました。犯人はこれを不服として控訴しましたが、同年12月12日、東京高等裁判所は一審判決を支持し、控訴を棄却。これにより、懲役7年の実刑判決が確定しました。

この事件は、日本の航空保安対策において新たな課題を突きつけるとともに、ハイジャック防止法の重要性を再認識させる出来事となりました。

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