全日空機雫石衝突事故

全日空機雫石衝突事故

全日空機雫石衝突事故は、1971年7月30日に岩手県上空で発生した航空事故で、全日本空輸（全日空）による旅客機と、航空自衛隊の戦闘機が空中で衝突し、双方の機体が墜落しました。この衝突により、全日空機に搭乗していた162名（乗客155名と乗員7名）が全員死亡した、当時の日本では最大の航空事故となりました。

事故の概要

事故は、午前12時45分に千歳空港を出発した全日空58便が羽田空港へ向かう最中に発生しました。この便の多くは静岡県の旅行団体で、アメリカ製のボーイング727型機（機体記号：JA8329）が使用されていました。出発が遅れたため、58便は1時33分に離陸し、午後1時46分に函館NDBを通過した時点で、高度22,000フィートで飛行していました。

一方、自衛隊はF-86F戦闘機による編隊飛行の訓練を行っており、午後1時28分に松島基地を離陸しました。彼らは訓練のための特定空域での飛行計画を持っていましたが、実際にはジェットルートに侵入していました。

衝突の詳細

午後2時02分39秒、全日空58便と自衛隊のF-86F戦闘機が雫石町上空で空中衝突しました。目撃者によれば、この時、視界は良好であり、雲も少なかったと報告されています。事故1分前には、全日空機は高度28,000フィートで水平飛行をしていましたが、自衛隊機の教官は訓練生に対し接触を回避する指示を出したものの、時機を逸しました。双方の機体は、全日空機の尾翼と自衛隊機の主翼の間で衝突し、その後両機は墜落しました。

墜落とその影響

自衛隊の訓練機は、接触後に回転し、訓練生は射出座席から脱出することはできませんでしたが、キャノピーが離脱したために水田に降下して生還しました。全日空機は、操縦不能になりながらも降下を続け、その結果、音速を超え、約15,000フィートで空中分解しました。墜落の後、162名全員の命が奪われ、その状況は非常に凄まじく報じられました。残骸は雫石町に広範囲に散乱し、遺族や目撃者に深い衝撃を与えました。

事故調査と背景

事故後、政府は事故調査委員会を設置し、事故の原因は基本的に航空空域の管理や訓練の際の手続きに問題があったとされました。報告書によると、訓練生は飛行空域を把握せず、全日空の操縦者も衝突を予測せずに行動したことが指摘されています。この事故の教訓から、航空行政の見直しが行われ、航空事故防止装置の義務化や法制度の整備が進められました。

事故の影響は広範囲にわたり、航空機の運航ルールや安全教育に大きな変革を迫りました。この事故をきっかけに、日本の航空業界は根本的な見直しを行い、現在に至るまで同様の大規模な事故は発生していません。事故の建設的な側面として、航空路と訓練空域の明確な分離が進められ、安全基準の厳格化が図られました。

追悼と安全教育

全日空機の事故を記念した慰霊の森が設置され、毎年慰霊祭が行われています。また、航空安全推進の一環として、全日空はこの事故を教訓に「航空安全推進・航空保安強化月間」を設け、社員の安全教育に取り組んでいます。事故の記憶は今も心に刻まれ、航空業界はさらなる安全を追求しています。

もう一度検索