八月四日体制

ギリシャ王国と八月四日体制：混乱と抵抗の時代

ギリシャ王国は、1935年の国民投票による王政復古を経て、再び国王ゲオルギオス2世の治世を迎えた。しかし、人民党と自由党の二大政党が多数を占めることができず、共産党が大きな影響力を持つ政治的膠着状態に陥っていた。この状況を打開しようと、両党首は奔走するも、不安定な政治情勢は社会不安へと発展した。

1936年、テッサロニキでのタバコ労働者のストライキが警官隊の発砲という悲劇的な結末を迎え、12名の死者を出した。この事件は、ギリシャ王国の脆弱性を浮き彫りにした。この混乱の中、元軍人で極右小政党の党首だったイオアニス・メタクサスは、国王ゲオルギオス2世に「強力な政府」の設立を提案。国王の承認を得たメタクサスは、1936年8月4日、ギリシャ共産党によるゼネラル・ストライキを阻止する名目で憲法を一時停止し、独裁政権「八月四日体制」を樹立した。議会政治は終焉を迎えた。

メタクサスの独裁政権は、法的にも民衆の支持も得ていなかったものの、メタクサス自身と公安相コンスタンディノス・マニアダキスらの有能さ、そしてギリシャ共産党内部の派閥争いによって、当初は大きな抵抗を受けることなく維持された。警察国家化が進み、反対勢力は徹底的に弾圧されたが、メタクサスの独裁は全体主義というよりは、権威主義的で温情主義的なものであり、ドイツやイタリアとの連携はなかった。1938年のクレタ島での暴動が、この体制への唯一の大規模な反発であった。

1930年代、南東ヨーロッパではドイツの影響力が拡大しつつあったが、ギリシャは比較的その影響を免れていた。1938年、メタクサスはイギリスとの同盟を模索したが、これは拒否された。しかし、1939年4月のイタリアによるアルバニア侵攻を受け、イギリスとフランスは、ギリシャとルーマニアの領土保障を約束した。

第二次世界大戦勃発後、メタクサスは中立を維持しながらイギリスとの友好関係を保とうとした。しかし、イタリアのムッソリーニは、ドイツの成功に嫉妬し、ギリシャを侵略することを決意する。1940年10月、イタリアはギリシャに最後通牒を突きつけたが、メタクサスはそれを「Όχι（いいえ）」と拒絶。イタリア軍のギリシャ侵攻が始まった。

ギリシャ軍はイタリア軍を撃退し、アルバニア南部への逆侵攻を開始。イギリスはギリシャへの限定的な支援を行ったが、ドイツの介入を恐れたメタクサスは、イギリスからの本格的な支援を拒否した。しかし、1941年1月にメタクサスが死去すると、後継首相アレクサンドロス・コリジスは徹底抗戦を選び、イギリスに支援を要請。イギリス連邦軍がギリシャに派遣されたものの、ギリシャ軍とイギリス連邦軍の間の連携は不足していた。

1941年4月、ドイツはイタリア軍の敗退を懸念し、ギリシャに侵攻。ユーゴスラビア方面からの侵攻も相まって、ギリシャ軍とイギリス連邦軍は敗退。コリジス首相は自殺した。後任のエマヌエル・ツデロスが首相に就任するも、ギリシャは崩壊寸前であった。ドイツ軍はアテネを占領し、親独政府が成立。ギリシャはドイツ、イタリア、ブルガリアによる三分割占領下に入り、苦難の時代を迎えることになった。八月四日体制は、その終焉を迎えた。

この八月四日体制は、ギリシャの歴史において、政治的混乱と外国勢力の侵略という困難な時代を象徴する出来事として記憶されている。メタクサスの独裁政治は、ギリシャの民主主義の停滞をもたらした一方で、短期的には国家の統一と安定に貢献したと評価する意見もあるが、その終焉は、ギリシャが国際的な紛争に巻き込まれる契機となり、国民に多大なる苦難をもたらしたことは否定できない。

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