八王子市歌
八王子市歌
東京都八王子市によって制定された「八王子市歌」は、詩人の北原白秋が作詞し、作曲家の山田耕瑳が曲を手がけた楽曲です。大正から昭和初期にかけて「黄金コンビ」と称された二人の手による市町村歌の一つであり、現在も福島県の「福島市歌」や愛知県の「岡崎市歌」などと共に、長きにわたり使用が続けられています。
制定の背景と歴史
この市歌は、1937年（昭和12年）に迎える市制施行20周年を記念して、制定の機運が高まったことから誕生しました。当時の日本を代表する詩人であった北原白秋に作詞が依頼されたと伝えられています。歌詞は1936年（昭和11年）9月20日に完成したとされており、その年のうちに山田耕瑳による作曲を経て正式に制定されました。
八王子市歌は、東京府においては東京市歌に次いで2番目に制定された市歌であり、多摩地域では最も早い市歌の制定事例となりました。その後、戦後の市町村合併によって周辺の町村を編入しましたが、市歌として存続し続けました。
しかし、1970年代に入ると、時代の変化や社会情勢の大変動によって八王子市の様相が大きく変わったことを理由に、「時代の市民感情にそぐわない」として、次第に公の場で歌われる機会が減少していきました。
記録と著作権
市歌が歌われる機会が減る中でも、その存在が記録された事例があります。1977年（昭和52年）には、八王子市子供会育成団体連絡協議会が自主的に制作した「八王子こども音頭」というシングルレコード（規格品番：JPE-0005）が発売されました。このレコードのB面には、「八王子市子ども会の歌」と共に八王子市歌が収録されています。ジャケットイラストは漫画家の永井豪氏が担当しました。
「八王子市歌」の歌詞および旋律は、著作権の保護期間がすでに満了しています。そのため、現在ではパブリックドメインとなっており、誰でも自由に利用することが可能です。
歌詞に含まれる表現と現代の議論
歌詞の中で、各節の最後に繰り返される「桑の都」というフレーズは、西行の詠んだとされる歌「浅川を渡れば富士の影清く桑の都に青嵐吹く」に由来しています。これは、八王子が古くから養蚕業で栄えた歴史を持つことから、「桑の都」が八王子の雅称として用いられているためです。
しかし近年、この市歌の歌詞に対して、現代社会の価値観とのずれを指摘する声も上がっています。特に、歌詞に含まれる古語の「ますらを」という言葉（男性を指す古い表現）が、現代の男女共同参画社会の理念にそぐわないのではないかという問題提起がなされています。2016年（平成28年）以降、八王子市議会では、この「ますらを」という表現を理由に、市歌の廃止や歌詞の改訂を求める質問が複数回にわたって行われています。これは、富山県高岡市が制定した「ふるさと高岡」にも見られる、市歌における現代的な価値観との整合性に関する同様の議論として注目されています。
このように八王子市歌は、制定時の歴史的背景や文化的な意味合いを持ちつつも、現代社会においてその表現内容に関する議論が続いており、市歌の役割やあり方について考えさせられる事例となっています。
参考文献
関連項目
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