公式令 (律令法)

公式令：古代日本の公文書と法令を規定する重要な法令

公式令は、古代日本の律令において、公文書や法令の様式、そしてそれらの施行に関する規則を定めた重要な法令です。律令における編目のひとつとして位置づけられ、その内容は行政運営の基盤をなすものでした。特に、養老令においては第21番目の編目として収録され、89条もの膨大な条文から構成されている点が特徴です。

隋唐律令との関連性

公式令と名付けられた法令は、日本のみならず、隋や唐の律令にも存在していました。これは、公文書の様式や法令の施行に関する規則を整備する必要性が、古代東アジアの諸国で共通していたことを示唆しています。日本の律令法においては、公式令は最も古くから存在した規定の1つと考えられており、その重要性がうかがえます。

養老令における公式令の内容

養老令における公式令は、その条文数の多さからもわかるように、非常に幅広い内容を網羅しています。主な内容は、以下の通りです。

公文書の様式に関する規定: 詔書、勅旨、奏上文書、報告書など、様々な公文書の書き方や様式を詳細に定めています。これにより、官僚機構における情報伝達や意思決定の効率化が図られました。具体的には、詔書式、勅旨式、論奏式、奏事式、便奏式、令旨式、啓式、奏弾式、飛駅式（上下）、解式、移式、符式、牒式、辞式など、多様な文書様式に関する規定が含まれています。
位階の授与に関する規定: 官位を授与する際の位記の様式や手続きに関する規定も含まれています。勅授位記式条、奏授位記式条、判授位記式条などが該当します。
監査や会計に関する規定: 計会（行政・財務監査）の手続きや様式に関する規定も含まれています。計会式、諸国会式、諸司会式などが該当します。
通行証や緊急時の連絡に関する規定: 過所（関の通行状）の様式や手続き、緊急時の連絡方法なども規定されています。過所式、給駅伝馬、諸国給鈴、車駕巡幸、給随身符、国有急速などが該当します。
官人の服務規定: 官人の勤務時間、宿直、出張時の手続きなど、官人の服務に関する規定も含まれています。百官宿直、京官上下、受時、京官出使などが該当します。
訴訟手続き: 訴訟の手続きや証拠の提出方法なども規定されています。訴訟、訴訟追摂、陳意見などが該当します。
公文書の取り扱い: 公文書の作成、保管、送付などに関する規定も含まれています。公文、料給官物、案成、文案、責返抄などが該当します。
その他: これ以外にも、天皇や皇族に対する敬称の規定（平出）、公文書への押印方法（行公文皆印）、官人の身分や位階に関する規定（内外諸司、京官、品位応叙、文武職事、諸王五位、弾正別勅、内外官）、緊急時の対応（事有急速）、官人の職務上のミスへの対応（官人判事、詔勅宣行）など、多岐にわたる規定が含まれています。

このように、公式令は単なる公文書の様式規定にとどまらず、古代日本の政府運営の全般にわたる基礎的な法令として機能していたことがわかります。その内容は、現代の行政法や訴訟法にも通じる部分が多く、古代日本の政治制度や社会構造を理解する上で非常に重要な資料となっています。

参考文献

井上光貞・関晃・土田直鎮・青木和夫 校注『律令』（日本思想大系新装版、岩波書店、1994年）
會田範治『註解養老令』有信堂、1964年
會田範治『唐律及び養老律の名例律梗概』有信堂、1964年
瀧川博士米寿記念会 編『律令制の諸問題 瀧川政次郎博士米寿記念論集』汲古書院、1984年

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