共同正犯

共同正犯：複数犯による犯罪責任

共同正犯とは、二人以上が協力して犯罪を実行した場合を指します。日本の刑法第60条では、共同正犯について規定しており、重要な概念となっています。単独で犯罪を実行した場合と異なり、共同正犯では、それぞれの役割や関与の度合いに関わらず、全ての加害者が正犯として扱われます。これは、犯罪の実行に複数人が関与することで、犯罪の危険性が増大し、社会への悪影響も大きくなるためです。

共同正犯の成立要件

共同正犯が成立するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。まず、各加害者には構成要件的故意（犯罪を犯す意思）または構成要件的過失（犯罪を犯す可能性を認識しながら注意義務を怠った状態）が必要です。そして、最も重要なのは「共同して犯罪を実行した」という事実です。

「共同して犯罪を実行した」とは、犯罪を実行するという共通の意思（意思の連絡）を持ち、実際に協力して犯罪を実行したことを意味します。この「共同実行の事実」については、どのような行為が共同とみなされるかについて、様々な解釈が存在します。

刑法の解釈としては、大きく分けて二つの立場があります。一つは、犯罪の実行行為自体を共同で行うことが必要とする立場（実行行為の共同説）です。もう一つは、犯罪の実現に向けて協力した行為を共同とみなす立場（構成要件行為の共同説）です。この違いは、刑法の自由主義的な見解を重視するか、法益保護の観点を重視するかによって生じます。

各種の共同正犯

共同正犯には、様々な類型があります。代表的なものを以下に説明します。

共謀共同正犯

共謀共同正犯は、複数人が事前に犯罪を実行する意思を共有し（共謀）、その意思に基づいて実行行為が行われた場合に成立します。必ずしも全員が直接実行行為に関与する必要はなく、実行行為を計画したり、支援したりする行為も含まれます。ただし、共謀の意思と、その意思に基づく具体的な実行行為の両方が必要です。

過失の共同正犯

過失の共同正犯は、複数人がそれぞれ過失によって犯罪に関与した場合に成立します。過失犯では、故意とは異なり、犯罪を犯す意思はありませんが、注意義務を怠ったために結果的に犯罪を引き起こした場合に責任を問われます。過失の共同正犯の成立要件については、過失行為の共同と共同実行の意思の両方が必要とされます。学説においては、過失犯における共同実行の意思の有無や、過失行為の共同の解釈について様々な議論があります。

結果的加重犯の共同正犯

結果的加重犯とは、犯罪を実行する意思はあったものの、結果的により重い罪に該当する結果を引き起こした場合を指します。例えば、傷害の意思で殴った結果、相手が死亡した場合などです。この場合、傷害致死罪の共同正犯が成立するかどうかは、加重結果（死亡）を帰責できるかどうかが問題となります。加重結果の過失が必要とする見解と、基本犯（傷害）についての共同実行の意思と事実があれば加重結果についても共同正犯が認められるという見解があります。

承継的共同正犯

承継的共同正犯は、先行者が犯罪を実行し始めた後、後続者が共同実行の意思を持って加担した場合に成立します。後続者は、先行者の行為以前の段階についても責任を負うのかどうかが問題となります。判例では、後続者が責任を負う範囲については、限定的に認められる傾向にあります。

択一的認定

裁判においては、犯行の実行者が複数いる場合、誰が具体的にどのような行為に関与したのかを明確に特定することが困難な場合があります。このような場合、裁判所は、複数の可能性のある事実を択一的に認定することがあります。この場合、訴因（起訴された内容）と異なる事実認定を行うことは、被告人の防御権を侵害しない範囲で行われます。

まとめ

共同正犯は、複数人が関与する複雑な犯罪において、それぞれの責任を明確にする上で非常に重要な概念です。本稿では、共同正犯の基礎的な知識について解説しました。より深い理解のためには、関連する判例や学説を研究することが必要です。

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