共有資源

共有資源（きょうゆうしげん）

共有資源とは、コンピュータネットワークに接続されたデバイスや情報の一部を、ネットワーク上の他のコンピュータから遠隔で利用できるようにしたものを指します。一般的には「ネットワーク共有」とも呼ばれ、組織内のローカルエリアネットワーク（LAN）や企業イントラネットなどで広く活用されています。これにより、複数のユーザーが共通のファイルを編集したり、一台のプリンターを共有したりすることが可能となり、リソースの効率的な利用と共同作業の促進が図られます。リモートからのアクセスであっても、多くの場合、あたかもローカルのコンピュータにあるかのように透過的に操作できるのが特徴です。

具体的な共有資源の種類

共有資源には様々な種類があります。代表的なものとして、ディスクやフォルダ内のファイルにアクセスする「共有ファイルアクセス」（ディスク共有、フォルダ共有とも）、ネットワーク経由で印刷指示を送る「共有プリンター」、画像を取り込むための「共有スキャナー」などがあります。これらの共有対象は、「共有ドライブボリューム」「共有フォルダ」「共有ファイル」「共有ドキュメント」などと呼ばれることもあります。

かつて「ファイル共有」という言葉は、主にオペレーティングシステム（OS）やLAN環境下での共有ファイルアクセスを指すのが一般的でした。しかし、2000年代に入りBitTorrentなどのP2P（Peer to Peer）アプリケーションが登場・普及して以降、インターネットを介した不特定多数間でのファイル交換も「ファイル共有」と呼ばれるようになり、その意味合いは広がっています。

共有を実現する技術要素

共有ファイルやプリンターへのアクセスを実現するためには、いくつかの技術要素が必要になります。具体的には、共有資源にアクセスしようとする側のコンピュータ（クライアント）のOSがサーバー上の資源へのアクセス機能をサポートしていること、そして共有資源を提供する側のコンピュータ（サーバー）のOSがクライアントからのアクセス要求を受け入れる機能を備えていることが前提となります。さらに、これらの間でデータのやり取りを行うためのアプリケーション層ファイル共有プロトコルと、それを支えるトランスポート層プロトコル（TCP/IP参照モデルにおける）が不可欠です。

代表的なファイルシステムやプロトコルには以下のようなものがあります。

SMB (Server Message Block): Microsoft Windows環境で標準的に使用されるファイル共有プロトコルです。Windowsネットワークコンポーネント「Microsoft ネットワーク用ファイルとプリンタ共有」を通じて提供されます。Unix系OSやその他のOSでも、SambaのようなソフトウェアによってSMBサーバーを構築し、Windowsクライアントからのアクセスを可能にすることができます。
WebDAV (Web-based Distributed Authoring and Versioning): HTTPプロトコルを拡張したもので、Webサーバー上のファイルやフォルダをリモートから操作（作成、編集、削除など）するために使用されます。
共有ディスクファイルシステム: 複数のコンピュータが物理的に共有されたディスクドライブに対し、それぞれがローカルファイルシステムと同様に直接アクセスする方式です。

アクセスのための命名規則とマッピング

共有資源にアクセスする際には、多くの場合、特定の命名規則が用いられます。例えば、DOSやWindows PCではUniversal Naming Convention (UNC) が一般的です。UNCでは、`\\サーバーコンピュータ名\共有名` の形式でネットワーク上の共有資源を指定します。ここで「サーバーコンピュータ名」は、サーバーのネットワーク上の識別名（WINS名、DNS名、あるいはIPアドレス）であり、「共有名」は共有設定されたフォルダやファイル、またはそのパスを示します。共有フォルダには、実際のフォルダ名とは異なる分かりやすい共有名を付けることも可能です。

また、共有ドライブやフォルダをクライアントPCでローカルドライブのように扱うために、「ドライブレターにマッピング」することがよく行われます。これにより、例えば `H:` ドライブとしてネットワーク上の共有フォルダにアクセスできるようになり、操作性が向上します。企業の環境では、ユーザーのホームディレクトリがネットワーク上の共有フォルダにマップされるといった利用例が見られます。

セキュリティとネットワーク負荷

ネットワーク共有は非常に便利である反面、セキュリティ上のリスクも伴います。適切に管理されていない共有資源は、本来アクセス権限を持たない第三者によって不正に閲覧されたり、改変されたりする可能性があります。また、コンピュータワームなど悪意のあるソフトウェアがネットワーク共有を介して感染を広げる経路となることも少なくありません。

さらに、共有資源への頻繁なアクセスはネットワーク全体の通信容量を消費する可能性があります。このため、通常、LANや企業イントラネットの外部にあるコンピュータからは、ファイアウォールによって共有資源へのアクセスが制限されます。ただし、Virtual Private Network (VPN) を利用することで、外部からでも認証されたユーザーが安全に共有資源にアクセスできるようになります。

共有資源のセキュリティは、通常、共有設定を行う際にファイルやフォルダごとにアクセス権限を設定することで制御されます。例えば、特定のユーザーのみアクセス可能とする、管理者のみ操作可能とする、またはログインしている全てのユーザーに読み取り権限を与える、といった詳細な設定が可能です。これらの設定方法はOSによって異なります。

家庭向けや小規模オフィス向けのOSには、特別な共有フォルダが用意されていることもあります。例えば、かつてのWindows XP Home Editionでは「Shared documents」フォルダが、Windows VistaやWindows 7では「Public Documents」フォルダがデフォルトでネットワーク共有可能な設定になっていることがありました。

ネットワーク構成と共有方式

ネットワークの規模や目的に応じて、共有資源の提供方式は異なります。

ワークグループ型（非集中型）: 家庭や小規模オフィスでよく見られる形態です。各コンピュータがサーバーとクライアントの両方の役割を担い、それぞれのコンピュータが自身のローカルフォルダやプリンターを他の参加者に共有します。Peer to Peerネットワークとも呼ばれます。
クライアントサーバー型（集中型）: 大規模な企業ネットワークなどで一般的です。ファイルサーバーやプリントサーバーといった専用のサーバーコンピュータが共有資源を一元的に管理・提供します。クライアントコンピュータ上のプロセスが通信を開始し、サーバープロセスはクライアントからの要求を待ち受けます。
SAN (Storage Area Network): 非常に大規模なネットワーク環境で利用される、ストレージに特化した高速なネットワークです。

近年では、ローカルネットワークの外側にあるクラウド上のオンラインストレージも、共有資源の一形態として広く利用されています。

ファイル転送や同期との違い

共有ファイルアクセスは、FTP (File Transfer Protocol) のような「ファイル転送」や「ファイル同期」とはいくつかの点で異なります。

ファイル転送は、文字通りファイルを一方から他方へコピーする、比較的基本的なサービスです。これに対し、共有ファイルアクセスはより透過的な機能を提供します。あたかもローカルにあるファイルのように操作でき、サーバー上のフォルダの内容が変更されれば自動的に反映されます。また、サーバー側のファイルを検索したり、複数のユーザーが同時にアクセスしたりするための並行性制御（ファイルのロックなど）や、細やかなファイルパーミッション管理といった、マルチユーザー環境をサポートする機能を含んでいます。

ファイル共有は主にLANサービスとして利用されることが多いですが、FTPはインターネットサービスとして設計されています。

ファイル同期は、複数のデバイス間でファイルの内容を一致させることを目的とします。共有ファイルアクセスは通常「常時接続」を前提とし、サーバーからの変更通知（プッシュ）に基づいてフォルダ情報が更新されます。一方、ファイル同期は、ユーザーが一時的にオフラインになることを許容し、再接続時に差分を検出して自動的に同期を行うエージェントソフトウェアに基づいていることが多いです。オフラインアクセスを可能にするために、リモートファイルのローカルキャッシュ機能を持つOSもあります。

共有資源の概念は、コンピュータネットワークにおけるリソース共有の基盤となる重要な機能です。

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