共通安全保障防衛政策

欧州連合の共通安全保障防衛政策（CSDP）詳解

欧州連合（EU）の共通安全保障防衛政策（CSDP：Common Security and Defence Policy）は、EUの外交・安全保障政策の中核をなす重要な枠組みです。リスボン条約以前は欧州安全保障防衛政策と呼ばれていましたが、北大西洋条約機構（NATO）の欧州安全保障防衛アイデンティティを継承しつつ、NATO非加盟国を含むEU独自の管轄下で運営されている点が大きな特徴です。CSDPは、加盟国政府代表者からなる欧州連合理事会が所管しますが、実際にはEU外務・安全保障政策上級代表が重要な役割を担っています。

歴史的背景と発足

ヨーロッパの安全保障政策は、第二次世界大戦後、西欧同盟、NATO、EUといった複数の枠組みの中で発展しました。初期の試みとして、1948年に西欧同盟が設立されましたが、その後NATOの設立によりその影響力は減少します。1950年代には欧州防衛共同体の構想もありましたが、フランス議会での批准反対により頓挫しました。

1992年、西欧同盟はペータースベルク・タスクを採択し、東ヨーロッパの不安定化への対応を強化します。人道支援、平和維持活動、緊急事態対応などが任務に含まれ、西欧同盟の存在感を高めました。

1996年のベルリン合意では、西欧同盟がNATOにおける欧州安全保障防衛アイデンティティの創設を監督することが合意されました。これは、ヨーロッパのNATO内での役割強化と、NATO参加を望まない分野でのEU独自行動の促進を目的としていました。さらに、ベルリン・プラス合意では、NATOが行動を拒否した場合でも、EUがNATOの資源を利用して軍事行動を実行できるようになりました。

アムステルダム条約により、EUはペータースベルク・タスクを自らの管轄下に編入し、CSDPの枠組みを構築します。当初、イギリスは消極的でしたが、フランスとイギリスの共同宣言により方針転換し、EUの自立的な安全保障能力構築に合意しました。1999年、ケルン欧州理事会で西欧同盟の機能がEUに編入され、事実上解散しました。同時に、ハビエル・ソラナがEU外務・安全保障政策上級代表に任命されました。

ヘルシンキ目標と軍事力増強

CSDPの軍事力増強のため、1999年にヘルシンキ目標が合意されました。加盟国は軍事能力リストを作成し、ペータースベルク・タスクの実行能力を高めることを目指しました。その後、欧州能力アクションプランやHeadline Goal 2010といった計画が策定されましたが、目標達成には時間がかかっているのが現状です。

EUとNATOの関係

EUの安全保障政策の独立化は、NATOの重要性を低下させる懸念を引き起こしました。アメリカは、NATOとの重複を避け、NATOとの連携を維持し、NATO非加盟国への差別を避けることを求めています。2002年のEU・NATO共同宣言では、危機管理活動における相互補完性、意思決定の自主性尊重、軍事力の相互補強などが強調されました。ベルリン・プラス合意により、NATOが行動を拒否した場合でも、EUはNATOの資源を利用できるようになりました。EUとNATOの関係は、「分離可能だが一体のもの」として表現されることが多く、同一の部隊や軍事力がEUとNATOの両方の行動を支えるものの、必要に応じてEUのために用いられることを意味します。

欧州安全保障戦略と組織

2003年には、「A Secure Europe In A Better World」と題された欧州安全保障戦略が策定されました。テロリズム、大量破壊兵器の拡散、地域紛争などへの対応が中心課題となっています。

2004年には欧州防衛機関が設立され、EUの防衛政策を支援しています。その他、ヘルシンキ目標、欧州連合戦闘群、欧州連合安全保障研究所など、様々な組織や機関がCSDPを支えています。政治・安全保障委員会、EU軍事委員会、EU軍事スタッフなど、常設の政治・軍事機関も設置されています。欧州連合作戦センターや各国作戦本部も運用されており、EUは必要に応じてNATOの資源も利用可能です。

域外展開

CSDPに基づき、EU軍は2003年以降、旧ユーゴスラビア、コンゴ民主共和国、ボスニア・ヘルツェゴビナなどで平和維持活動などを展開しています。その他、グルジア、インドネシア、スーダンなど、様々な地域でEUの活動が見られます。

今後の課題

CSDPは、EUの安全保障政策において重要な役割を担っていますが、NATOとの関係調整、軍事力増強、予算確保など、多くの課題が残されています。今後のEUの安全保障政策の行方は、国際情勢の変化と、これらの課題への対応にかかっています。

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