西欧同盟

西欧同盟（WEU）の歴史：冷戦と欧州統合の狭間で

西欧同盟（Western European Union、WEU）は、冷戦期における西ヨーロッパ諸国の安全保障協力を目的とした国際組織でした。1948年のブリュッセル条約締結に端を発し、当初は集団的自衛を軸に、経済・文化・社会面での協調も目指していました。しかし、欧州防衛共同体の失敗を受け、1954年には西ドイツとイタリアが加わり、パリ協定によって西欧同盟として正式に発足しました。この修正ブリュッセル条約では、西ヨーロッパ経済の復興、侵略への相互支援、そしてヨーロッパ統合の促進という三つの目的が掲げられました。

西欧同盟の中核は、集団的自衛を担う軍事機構でした。同時に、文化的・社会的な協調を目指した「諮問会議」も設置され、共産主義の拡大阻止という冷戦時代の文脈の中で重要な役割を果たしました。フランスは当初、防衛の中枢を西欧同盟に移そうとも考えていましたが、その後の歴史的変化の中で、その役割は変化していきます。

冷戦終結後、欧州連合（EU）の役割が拡大するにつれ、西欧同盟の機能は徐々にEUに移管されることになります。アムステルダム条約ではEUの独立した防衛能力構築が謳われ、西欧同盟はそのための重要な役割を担っていました。しかし、2000年11月、西欧同盟加盟国の閣僚はマルセイユで会合を開き、EUの共通外交・安全保障政策強化に伴い、西欧同盟の機能をEUに移管することで合意しました。

2002年1月1日には、西欧同盟の安全保障研究所と衛星センターがそれぞれEU安全保障研究所とEU衛星センターへと移管されました。アムステルダム条約で西欧同盟に与えられていた役割も、ニース条約で削除されました。リスボン条約では、EUと北大西洋条約機構（NATO）、そして西欧同盟の協力関係が規定されましたが、ブリュッセル条約第4条の防衛に関する責任については、当初は含まれていませんでした。しかし、リスボン条約によって修正されたEU条約第42条第7項で、この責任がEUの枠組みに組み込まれることとなります。

西欧同盟のEUへの統合は段階的に進みました。1999年には、EUの共通外交・安全保障政策上級代表であるハビエル・ソラナが西欧同盟事務総長を兼任し、移管を指揮しました。1992年に西欧同盟で策定されたペータースベルク・タスク（人道支援、平和維持活動、危機管理作戦など）は、1997年のアムステルダム条約でEUに組み込まれ、欧州安全保障防衛政策（ESDP）の基礎となりました。EU安全保障研究所とEU衛星センターも、元々は西欧同盟の機関でしたが、EUの共通外交・安全保障政策の下で機能するようになりました。

西欧同盟の活動を監督していた議員総会は、EUの政策に関与できず解散を余儀なくされました。しかし、議員総会は、監督権限や加盟国との連携、防衛政策に関する専門知識を有していたため、「暫定欧州安全保障防衛政策会議」と名を改め、EUにおける第二の議会組織としての地位を主張しました。しかし、リスボン条約による外交政策の簡素化、欧州議会の監視強化の流れの中で、その主張は実現しませんでした。

2009年、西欧同盟の集団的自衛条項はリスボン条約によってEUに継承されました。これを受け、西欧同盟の廃止に向けた動きが加速します。2010年にはイギリス、ドイツが修正ブリュッセル条約からの脱退を表明、スペインが締結国の代表として組織廃止を発表しました。そして、2011年6月30日、西欧同盟は正式に活動を停止し、その歴史に幕を閉じました。西欧同盟はブリュッセルに本部を置き、65名の職員と年間1340万ユーロの予算規模を有していました。理事会と議員総会が主要な機関でしたが、その機能はEUへと移行し、西欧同盟の組織自体は解体されました。西欧同盟の遺産は、EUの安全保障・防衛政策に受け継がれ、欧州統合の進展に貢献したと言えるでしょう。

西欧同盟の設立と廃止は、冷戦終結後の欧州安全保障環境の変化、そしてEUの統合プロセスを象徴する出来事でした。西欧同盟の経験は、今後のEUの安全保障・防衛政策にとって貴重な教訓となるでしょう。西欧装備グループや欧州即応部隊といった西欧同盟の活動も、欧州防衛機関やEUの枠組みへと引き継がれていきました。これらの組織や活動は、欧州の安全保障・防衛協力体制の進化を物語っています。

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