具注暦

具注暦（ぐちゅうれき）は、古代日本の朝廷における陰陽寮が編纂し、頒布していた公式の暦です。その最大の特徴は、吉凶を判断するための多種多様な暦注が詳細に記載されている点にあります。この「注」が具（つぶさ）に記入されていることから、具注暦と呼ばれるようになりました。

具注暦の構成と特徴

具注暦は巻暦の形式を取り、すべて漢字で記述されています。暦面は基本的に三段構成となっており、それぞれ異なる情報が記載されていました。

上段: 日付、干支、納音、十二直といった暦の基本項目や、その日の吉凶を示す暦注が記されていました。
中段: 二十四節気や七十二候など、季節の移り変わりを示す情報が記載されていました。
* 下段: その他、日々の生活に関わる様々な暦注が記されていました。

通常、半年分を1巻として作成されていました。

具注暦の歴史

現存する最古の具注暦は、正倉院文書に収められている天平18年（746年）の暦です。この暦は紙に書かれており、当時の暦の様子を知る上で貴重な資料となっています。

奈良時代には、具注暦の余白に日記を書き込む習慣が生まれました。平安時代に入ると、日記を書き込むための余白が拡大され、より個人的な記録としての側面を持つようになります。藤原道長が日記を書き込んだ具注暦は『御堂関白記』として知られ、国宝に指定されています。

鎌倉時代後期になると、仮名暦が登場し、具注暦は徐々に衰退していきます。しかし、その高い格式から公式の暦としての地位は維持され続けました。

江戸時代には、実用性よりも公家や大名などの間で「ステータスシンボル」としての意味合いが強くなり、贈答品や儀礼的な用途で使用されることが多くなりました。

明治時代に入り、明治改暦によって太陽暦が採用されると、具注暦は仮名暦とともにその役割を終え、姿を消しました。

具注暦は、単なる暦としてだけでなく、当時の社会や文化、人々の生活を知る上で重要な資料です。暦注の内容や日記の記述からは、当時の人々の信仰や価値観、生活習慣などを垣間見ることができます。

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