仮名暦

仮名暦（かなごよみ）は、主に平仮名を用いて記述された和暦の一種です。これは、陰陽寮が作成する漢字を多用した具注暦（ぐちゅうれき）に対し、民間で作成された暦を指します。国字暦（こくじごよみ）という名称が用いられることもあります。

仮名暦の初期の形態は、具注暦の内容を平仮名に書き換え、その要点を抜き出したものと考えられています。しかし、時代が進むにつれて、三島暦（みしまごよみ）のように独自の編暦を行う仮名暦も現れました。仮名暦に関する記述は『宇治拾遺物語』にも見られますが、現存する最古の仮名暦は鎌倉時代中期のものとされています。鎌倉時代末期には、板本として印刷された仮名暦（摺暦（すりごよみ））も登場しました。

仮名暦には主に平仮名が用いられていましたが、中には片仮名書きのものや、簡易な漢字が混じったものも存在しました。典型的な仮名暦は、最初に暦の序文を置き、毎月の冒頭には月名や大小を記載します。各日の欄は上中下の3段に分かれており、上段には日付・干支・十二直（じゅうにちょく）を、中段には正節（しょうせつ）・中気（ちゅうき）などの暦に関する情報を、下段には吉凶や簡単な暦注などを記述していました。

具注暦は貴族階級に限定的に配布されていたのに対し、仮名暦は制約がなく、平仮名や簡単な漢字しか読めない庶民層でも容易に内容を理解できました。そのため、仮名暦は広く民衆に普及し、日本の暦の普及に大きな影響を与えました。その後、京都においては陰陽寮の監修を受けた京暦（きょうごよみ）が成立しました。

しかし、貞享暦（じょうきょうれき）への改暦後、全国の仮名暦は江戸幕府および土御門家（つちみかどけ）の監督下に置かれ、独自の編暦が禁止されました。ただし、薩摩藩の庇護を受けた薩摩暦（さつまごよみ）だけは、この禁令を免れたと伝えられています。そして、1873年（明治6年）の太陽暦への改暦によって、仮名暦は具注暦とともにその存在意義を失い、姿を消すこととなりました。

参考文献
内田正男『暦と時の事典 日本の暦法と時法』（雄山閣出版、1986年）ISBN 978-4-639-00566-7
神田茂「仮名暦」（『国史大辞典 3』（吉川弘文館、1983年） ISBN 978-4-642-00503-6）

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