典鋳司

典鋳司についての詳細な解説

典鋳司（てんちゅうし／てんじゅし）は、日本の律令制における一つの官司であり、その管轄は大蔵省に属していました。この官司は、金属の鋳造や細工に関する専門的な業務を担い、具体的には金、銀、銅、鉄の鋳造、鍍金、彫金、瑠璃細工（るり、つまりガラスの製作）、そして宝石や玉の製作を行っていました。このように、典鋳司は重要な役割を果たしていたため、皇室や国家運営にとって欠かせない存在でした。さらに、この官司は「大司」として分類されることも特筆に値します。

職員構成

典鋳司の職員には、正（正六位上相当）や佑（従七位下相当）、大令史（大初位上相当）、小令史（大初位下相当）がそれぞれ1名ずつ、さらに使部が10人、直丁が1人、伴部の雑工部の雑工が10人という構成でした。このように多岐にわたる職務があったため、自然と多くの人員が必要とされたことがわかります。これに加えて、雑戸の雑工戸（ぞうくこ）が附属しており、これらの作業を支えていました。

記録の中での存在

『続日本紀』の記録によれば、典鋳司は大宝令の施行に伴って新たに設立されたばかりの官司でした。しかし、工人の配属が遅れていたため、実際には令施行から数年間にわたって、典鋳司は完全には機能していなかったとされています。この時期、諸国印の鋳造は鍛冶司が代行していたとのことで、新井喜久夫の説に従って考えると、例え新設されたとはいえ、現実にはその役割を果たしていなかったようです。

その後の記録では、元正天皇の神亀2年（725年）に、播磨直弟兄（はりまのあたいおとえ）が典鋳正として従五位下の地位を授けられたことが確認されています。これに関連して、『万葉集』の詩詞に典鋳司に関する言及が見られることからも、代々の官司として整理されていく過程がうかがえます。

内匠寮との統合

さらに、寶亀5年（774年）には、典鋳司が内匠寮（建物や道具を扱う役所）に併合されたことが『官職秘抄』に記載されています。この出来事は、典鋳司が従来の独立した官司としての活動から次第に内匠寮に吸収されていく運命を示しており、時代の変化や官制の再編成の一環として捉えることができます。国の金属に関する業務が、より一層の効率を求められるようになった背景があったのかもしれません。

総括

典鋳司は律令制度において、重要な金属工芸分野を担当していた官司であり、その成立や発展の過程には多くの歴史的背景や課題が存在しました。制度の整備や職員の配置の遅延、さらに後に内匠寮に併合されるという運命は、当時の技術や人員構成、さらには政策の変更を反映した結果と言えるでしょう。今後もこのような官司の歴史を探求することで、日本古代の社会構造や文化を深く理解できるでしょう。

もう一度検索