内村鑑三不敬事件

内村鑑三不敬事件

内村鑑三不敬事件は、1891年（明治24年）に内村鑑三が第一高等中学校の教員を辞任するに至った事件です。この事件は、内村が教育勅語奉読式において最敬礼を行わなかったことが発端となり、当時の社会に大きな波紋を広げました。

事件の背景

1890年（明治23年）10月30日に教育勅語が発布され、第一高等中学校でも奉読式が行われることになりました。内村は同年から嘱託教員として勤務していましたが、1891年1月9日の奉読式において、天皇の御名に対して最敬礼を行わなかったことが問題視されました。内村は最敬礼をしなかっただけであり、敬礼そのものを拒否したわけではありませんでしたが、同僚教師や生徒から激しい非難を浴び、社会問題へと発展しました。

事件の詳細

当時の状況において、教育勅語は天皇の権威を象徴するものであり、その奉読式における最敬礼は、国民としての忠誠を示す重要な行為とされていました。内村の行動は、この社会的な期待に反するものとして捉えられ、不敬であると断じられたのです。この事件は、内村に対する激しい非難と、彼を擁護する意見が入り乱れる事態となりました。

事件の影響

内村は、この事件によって心身ともに疲弊し、1891年2月に第一高等中学校を辞職することになりました。この事件は、内村の思想や信仰に大きな影響を与えただけでなく、当時の日本の社会における宗教観や天皇に対する敬意のあり方を深く問い直す契機となりました。

東京帝国大学教授の井上哲次郎は、内村を激しく非難し、この事件における批判の急先鋒となりました。一方、日本組合基督教会の金森通倫は、皇室崇拝や先祖崇拝を容認する立場を示しましたが、日本基督教会の指導者である植村正久はこれを認めませんでした。植村は、「勅語に対する拝礼は憲法や法律、教育令に規定されたものではなく、運動会の申し合わせのようなものであり、解職理由とするのは不合理である」と主張し、学生の内村糾弾運動を批判しましたが、社会的な影響は限定的でした。

事件の考察

作家の山本七平は、この事件を「日本人が宗教的に寛容だというのは信じがたい。ある一点に触れると恐るべき不寛容を示す」と評し、欧米と不寛容の基準が違うだけで、日本も不寛容であることを指摘しました。この事件は、単なる教育現場での出来事にとどまらず、当時の社会全体の価値観や、宗教、天皇に対する考え方を反映した事件であると言えるでしょう。

まとめ

内村鑑三不敬事件は、内村鑑三の教育勅語に対する態度が引き起こした事件であり、当時の社会における宗教的な寛容さや、天皇に対する敬意のあり方について深く考えさせる事件です。この事件は、内村自身の思想形成にも大きな影響を与え、後の彼の活動に繋がっていくことになります。

参考文献

小沢三郎『内村鑑三不敬事件』新教出版社〈日本キリスト教史双書〉、2004年12月。
第五回日本伝道会議・プロテスタント宣教150年プロジェクト編 編『日本開国とプロテスタント宣教150年』いのちのことば社、2009年9月。

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