山本七平

山本七平：日本社会を独自の視点で捉えた評論家

山本七平（1921年12月18日 - 1991年12月10日）は、日本の評論家であり、山本書店店主として知られています。太平洋戦争後の保守系マスメディアを中心に活動し、独自の視点から日本社会や文化を分析しました。

生涯

東京府荏原郡三軒茶屋（現在の東京都世田谷区）で、クリスチャンの両親のもとに生まれました。青山学院専門部高等商業学部を卒業後、陸軍に入隊し、ルソン島で終戦を迎えました。帰国後、福村書店に勤務し、翻訳を手がけました。1956年には山本書店を創業し、聖書学関連の書籍を出版しました。

イザヤ・ベンダサンとの関係

山本七平は、『日本人とユダヤ人』の著者イザヤ・ベンダサンと深い関わりがありました。山本は、自身がベンダサンの著作に関与していたことを認めています。研究会の説明や関係者の証言から、『日本人とユダヤ人』は、山本が2人のユダヤ人との対話をもとに構成・執筆したものであると結論付けられています。山本の死後、『日本人とユダヤ人』は山本七平名義で出版されるなど、事実上山本の著作として扱われることが多くなっています。

思想

山本七平は、「空気」や「実体語・空体語」といった独自の概念を用いて、日本社会・日本文化・日本人の行動様式を分析しました。その業績は「山本学」と称され、日本人の精神構造や行動原理を解き明かすものとして高く評価されています。クリスチャンであり、大逆事件で処刑された大石誠之助を親族に持つという背景が、山本の思想形成に大きな影響を与えたと考えられています。

中国古典にも造詣が深く、『論語の読み方』や『「孫子」の読み方』など、多数の論考を発表しました。特に『「孫子」の読み方』では、旧日本軍の精神主義を批判し、合理的な戦略思考の重要性を説いています。

最も力を入れて執筆した作品として、『現人神の創作者たち』と『洪思翊中将の処刑』が挙げられます。『現人神の創作者たち』では、尊皇思想の形成過程を詳細に分析し、その影響を明らかにしました。『洪思翊中将の処刑』では、朝鮮人でありながら日本軍で中将まで昇進した洪思翊の複雑な人物像を描き出し、戦争と民族の問題に深く切り込んでいます。

学術的な評価

山本学は、社会学の中心理論である「構造-機能分析」に近いと指摘されており、社会学研究においても重要な文献として扱われています。在野の評論家として活動しましたが、小室直樹などから高く評価され、アカデミズムでも注目を集めました。

『日本資本主義の精神』は、日本の資本主義の特徴をいち早く論じたものとして、ソ連崩壊後の世界において再評価されています。『現人神の創作者たち』は、日本の政治思想史研究における重要な業績として、丸山真男や藤田省三の研究と並び称されています。

エピソード

教育問題や家庭内暴力について独自の視点から意見を述べ、議論を呼びました。外国人を相手にした講演会では、日本の家庭における女性の地位について質問され、反論するなど、率直な人柄が窺えるエピソードが数多く残されています。

小室直樹との親交は深く、小室の研究活動を支援しました。司馬遼太郎は、山本七平の正義論に共感し、イデオロギー批判を展開しました。

評価と批判

小林秀雄は、『日本人とユダヤ人』を高く評価し、その着眼点を称賛しました。一方で、山本七平の日本刀に関する記述や語学力については批判も存在します。浅見定雄は、『日本人とユダヤ人』における誤訳や事実誤認を指摘し、山本の知識や論理展開を厳しく批判しました。

著作

山本七平は、日本論、軍隊経験、評伝、中国古典、聖書・キリスト教関連など、幅広い分野で多数の著作を発表しました。代表作としては、『「空気」の研究』、『現人神の創作者たち』、『洪思翊中将の処刑』などが挙げられます。また、イザヤ・ベンダサン名義でも、『日本人とユダヤ人』、『日本教について』など、多くの著作を発表しました。

参考文献

山本れい子ほか 『山本七平 ガンとかく闘えり』（山本書店、増訂版1999年）
稲垣武 『怒りを抑えし者 「評伝」山本七平』（PHP、1997年）
* 谷沢永一 『山本七平の叡智』（PHP研究所、新版2007年）

山本七平の著作は、現代の日本社会を理解するための貴重な手がかりを提供してくれます。その思想は、今もなお私たちに多くの示唆を与え続けています。

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