内部オールト雲

内部オールト雲とは

内部オールト雲とは、太陽系外縁部に存在が提唱されている、理論上の星周円盤です。オールトの雲の内側に位置すると考えられており、提唱者であるジャック・G・ヒルズの名前からヒルズの雲とも呼ばれます。この領域は、太陽から約250〜30,000天文単位（au）の範囲に広がると推定されていますが、内側の境界は明確ではありません。惑星やカイパーベルト天体の軌道よりもはるかに遠くに位置し、さらに遠くまで広がっている可能性も指摘されています。

内部オールト雲の必要性

オールトの雲にある彗星は、銀河や近傍の恒星の重力の影響を常に受けており、その軌道は不安定です。多くの彗星が太陽系から離脱したり、太陽に落下したりするため、オールトの雲は時間とともに枯渇してしまうはずです。しかし、実際には現在も十分な数の彗星が存在しており、その供給源となる内部オールト雲の存在が提唱されました。内部オールト雲は、オールトの雲の約5倍もの彗星が存在すると考えられており、この領域から彗星が供給されることで、オールトの雲が維持されると考えられています。

内部オールト雲の歴史

オールトの雲モデルの誕生

1932年から1981年まで、天文学者はエッジワース・カイパーベルトとオールトの雲が、太陽系の彗星の唯一の供給源だと考えていました。1932年にエストニアの天文学者エルンスト・エピックが、彗星が太陽系外縁の雲に由来すると提唱し、1950年にはオランダの天文学者ヤン・オールトが独立して同様の考えを発表しました。オールトは、観測された彗星の軌道を分析し、太陽から40,000〜150,000 auの距離に彗星の貯留層があることを示唆しました。

新しいモデルの提唱

1980年代に入ると、オールトの雲の内側に、より密度の高い内部領域が存在する可能性が指摘されました。1981年、ジャック・G・ヒルズが、太陽系近傍の恒星の通過が彗星の軌道に影響を与え、「彗星の雨」を引き起こす可能性を指摘しました。ヒルズは、ほとんどの長周期彗星の軌道長半径が10,000 auと、オールトの雲の距離よりもはるかに太陽に近いことを示しました。そこで、外部のオールトの雲に彗星を供給する、より多くの彗星核を持つ内部の雲の存在を提唱しました。

その後、1982年にはシドニー・ヴァン・デン・バーグ、1983年にはマーク・E・ベイリーがそれぞれ内部オールト雲の構造を提案しました。1986年にはベイリーが、太陽系の彗星の大部分は内部オールト雲に由来すると主張し、1987年にはVictor ClubeとBill Napier、1988年にはR.B.Stothersによって研究がさらに拡張されました。1991年になって、科学者たちがヒルズの理論を再評価したことで、内部オールト雲は再び注目を集めるようになりました。

内部オールト雲の特徴

構造と構成

内部オールト雲の彗星は、周囲の環境や遠方の天体から常に影響を受けており、多くの彗星が太陽系から離脱したり、太陽に接近したりしています。このため、オールトの雲はとっくの昔に崩壊しているはずですが、実際には存在しており、内部オールト雲の存在がこの矛盾を説明する可能性があります。内部オールト雲は、オールトの雲に彗星を補給する役割を担うと考えられています。

内部オールト雲は、太陽系で最も多くの彗星が集中している場所であると考えられています。オールトの雲よりも密度が高く、その大きさは5,000〜20,000 auの範囲と推定されています。一方、オールトの雲の大きさは20,000〜50,000 auです。内部オールト雲の質量は不明ですが、オールトの雲の5倍の質量があると考える研究者もいます。マーク・E・ベイリーは、天体の大部分が10,000 auに位置する場合、内部オールト雲の質量は約13.8地球質量であると推定しています。

内部オールト雲の天体は、水、メタン、エタン、一酸化炭素、シアン化水素などの様々な氷で構成されています。しかし、小[[惑星]]1996 PWの発見から、岩石質の天体も含まれている可能性が示唆されています。彗星の炭素分析と窒素同位体比の調査では、オールトの雲由来の彗星と木星族彗星の間にはほとんど差がないことがわかりました。このことは、どちらの彗星も原始惑星系円盤に由来していることを示唆しています。

形成

多くの科学者は、太陽系が誕生してから8億年以内に、太陽と他の恒星が800 auの距離まで接近遭遇した際に、内部オールト雲が形成されたと考えています。この考えは、小[[惑星]]セドナの離心率の大きな軌道を説明する上で有効です。その場合、内部オールト雲はオールトの雲よりも「若い」可能性があります。

内部オールト雲の候補天体

彗星

いくつかの彗星は、内部オールト雲に由来する可能性が指摘されています。特に、遠日点距離が1,000 auより大きく10,000 au未満の彗星は、内部オールト雲に由来すると考えられています。例えば、ラブジョイ彗星、百武彗星、マックホルツ彗星などがその候補です。

セドナ

セドナは、2003年に発見された太陽系外縁天体で、分光観測の結果、その表面組成は他の太陽系外縁天体と似ており、主に水の氷、メタン、窒素の混合物にソリンが混ざったものであることがわかっています。内部オールト雲の定義によっては、セドナが内部オールト雲天体として初めて検出された天体になる可能性があります。セドナは、太陽から約76〜906 auの範囲を公転しており、その軌道はエッジワース・カイパーベルト天体とは見なされず、分離天体として分類されています。

2012 VP113

2012 VP113は、セドナと似た軌道を持つ太陽系外縁天体で、その軌道は太陽から約80〜448 auの範囲にあります。

(528219) 2008 KV42

(528219) 2008 KV42は逆行軌道を取っており、内部オールト雲またはオールトの雲に由来する可能性が指摘されています。

ダモクレス族

ダモクレス族は、起源が疑われている天体群で、その中には内部オールト雲に由来する可能性のある天体も含まれています。

まとめ

内部オールト雲は、太陽系の最外縁部に位置すると考えられる天体群であり、オールトの雲の彗星供給源として重要な役割を担っています。この領域の理解は、彗星の起源や太陽系の進化を解明する上で不可欠です。今後の研究によって、内部オールト雲の構造や構成、その形成過程がより明らかになることが期待されます。

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