円口類

円口類（えんこうるい）

円口類（学名：Cyclostomata）は、脊椎動物亜門に属する一群であり、ヌタウナギ類（ヌタウナギ綱 Myxini）とヤツメウナギ類（ヤツメウナギ綱 Petromyzontida）を含んでいます。現在地球上に生息している顎を持たない脊椎動物は、全てこの円口類に分類されています。このグループは、1806年にアンドレ・マリー・コンスタン・デュメリルによって、顎を欠き口の形が円形であるヌタウナギとヤツメウナギをまとめて提唱されました。

分類学上の変遷

提唱された当初はヌタウナギ類とヤツメウナギ類が近縁なグループとして扱われていましたが、その後の形態学的・発生学的研究によって、両者はそれぞれ独立した系統であるという見解が広まりました。特にヌタウナギは脊椎骨を持たないことや、神経堤細胞の発生パターンが独特であることから、他の全ての脊椎動物の姉妹群である穿口蓋類（Hyperotreti）と見なされ、厳密な意味での脊椎動物ではないとされた時期もありました。これにより、一時的に円口類という分類群は使われなくなりました。しかし、近年の詳細な形態比較、発生学的な再検証、そして特に分子系統解析が進んだことで、再びヌタウナギ類とヤツメウナギ類が単一の共通祖先を持つ単系統群であるという説が有力視されるようになり、現在では円口類という分類群が用いられています。ヌタウナギの神経堤細胞に関する以前の観察は、現在は誤りであったことが明らかになっています。

共通の特徴

円口類は、その名の通り、顎を持たず頭部の先端に開いた単純な円形の口を持つことを最大の特徴とします。また、魚類の多くが持つ胸鰭や腹鰭のような対になった鰭を持たないことも共通点です。体表は滑らかな粘膜で覆われています。呼吸は、口から取り入れた水を体側に並んだ鰓孔（さいこう）から排出する形で行われます。顎や真の歯はありませんが、餌をとるために利用する鋭い角質の歯状突起を持っています。

主な生息環境は比較的寒冷な地域の河川や湖沼、沿岸部の海、または温暖な地域のより深い海域と、幅広い水域に分布しています。

ヌタウナギ類（Myxini）

ヌタウナギ類は、大陸棚から深海にかけての冷たい海に主に生息しています。体は細長くウナギのような形をしており、粘膜で覆われています。多くの種では目が皮膚の下に埋もれており、外からは見えにくいですが、その部分の皮膚は白っぽく見えます。口の周囲には4対から6対のひげを持ちます。口そのものには歯がありませんが、舌には鋭い歯状突起が発達しており、これを使って主に死んだ魚や弱った魚、海底のゴカイなどを捕食します。化石記録が少ないため、進化の過程には不明な点が多いグループです。

漁業においては、網にかかった魚を食害したり、捕獲時に大量の粘液を分泌して漁具を汚損することから、嫌われる傾向があります。一方、地域によっては食用とされており、特に韓国では古くから滋養食として人気があり、多様な料理法があります。皮は丈夫で加工しやすいため、財布などの皮革製品にも利用されます。しかし、繁殖力がさほど強くないことから、集中的な漁獲によって資源が枯渇しやすいという問題も指摘されています。

ヤツメウナギ類（Petromyzontiformes）

ヤツメウナギ類は、両半球の比較的冷涼な淡水域や沿岸海域に生息しています。ヌタウナギ類とは異なり目は比較的大きく、目の後ろに7対の明瞭な鰓孔が並んでいます。口は吸盤状になり、その縁に鋭い角質の歯が並んでいます。多くの種は他の魚に取り付き、この歯で皮膚に傷をつけて血液や体液を吸う寄生性の生活を送ります。

ヤツメウナギ類には、海で成長した後に産卵のため川へ遡上する種と、一生を河川で過ごす河川残留型の種がいます。興味深いのは、卵から孵化した幼生が親とは全く異なる形態を持つことです。この幼生はアンモシーテス幼生と呼ばれ、砂底のきれいな川底に潜って、流れてくる微細なデトリタスなどを濾過して食べて生活します。目は皮膚の下に埋もれ、吸盤や歯もありません。数年間を幼生として過ごした後、変態して親と同じ形態の幼体や成体となります。この幼生期が健全な河川環境に依存するため、ヤツメウナギ類は水質汚染などの環境変化に非常に敏感であり、特にスナヤツメなどは河川環境の指標となることがあります。

変態後の成体は、そのまま河川で繁殖する河川残留型（例：スナヤツメ）と、海や湖へ下って魚類に寄生し大きく成長してから再び川へ遡上する降海型（例：カワヤツメ）に分けられます。降海型の種は、日本やフランスなどで食用とされることがあります。また、漁業対象魚に寄生して被害を与えることもあり、アメリカの五大湖では、移入されたウミヤツメが深刻なマス類の食害を引き起こし大きな問題となりました。

感受性

EUにおける科学目的で使用される動物の保護に関する指令では、円口類も対象に含まれています。これは、円口類が痛みや苦痛を感じる能力があると科学的に認められているためです。

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