ウミヤツメ

ウミヤツメ (海八目)

ウミヤツメ（Petromyzon marinus）は、ヨーロッパや北米の大西洋岸、地中海に生息するヤツメウナギの一種です。日本では「海八目」とも呼ばれます。成体は寄生性であり、他の魚に吸い付いて体液を吸うことで知られています。

生態

ウミヤツメは両側回遊魚であり、川で孵化した幼生はアンモシーテスと呼ばれます。アンモシーテスは、眼や吸盤を持たない状態で、微生物やデトリタスを食べて4〜6年を過ごします。その後、変態を経て1〜2年で成体となり、海や湖に移動します。

成体は、吸盤状の口で他の魚に吸い付き、鋭い棘のある舌と歯で組織を削り取ります。唾液には血液凝固を妨げる物質が含まれており、獲物は大量出血や感染症で死に至ることがあります。成体は12〜20ヶ月後に川を遡上し、春に産卵を行います。産卵時には無数の個体が絡み合い、球状の塊を作ります。産卵数は60,000〜70,000個にも及びますが、産卵後には死んでしまいます。

五大湖への侵入と影響

ウミヤツメは、五大湖における侵略的外来種として知られています。元々はニューヨーク州やバーモント州のフィンガーレイクスやシャンプレーン湖に生息していましたが、19世紀にエリー運河やウェランド運河を通じてオンタリオ湖から五大湖へと侵入しました。

五大湖に侵入したウミヤツメは、レイクトラウトやシロマスなどの在来魚を捕食し、個体数を激減させました。これらの頂点捕食者の減少は、生態系全体に悪影響を及ぼし、エールワイフのような別の外来魚の増加を招き、在来種へのさらなる悪影響を引き起こしました。

対策

五大湖におけるウミヤツメの対策は、Great Lakes Fishery Commissionの監督下で行われています。これまでに、殺魚剤の投入や電気柵の設置などが行われ、一定の成果を上げています。

現在最も有効な対策は、殺ヤツメ剤であるTFM（3-トリフルオロメチル-4-ニトロフェノール）の使用です。TFMはウミヤツメに対して選択毒性を示し、他の魚類への影響が少ないという特徴があります。また、雄を不妊化し、繁殖能力を低下させる対策も行われています。不妊化された雄は、生殖能力のある雄と競合し、受精卵の数を減らす効果があります。

その他、ウミヤツメが繁殖のために川を遡上するのを防ぐために、川に柵を設ける対策も行われています。しかし、この方法は他の魚の移動も阻害してしまうため、柵の高さを調整するなどの工夫が凝らされています。近年では、幼生が分泌するフェロモンや性成熟した雄が分泌するフェロモンを利用して、ウミヤツメの移動や繁殖を妨害する研究も進められています。

これらの対策により、ウミヤツメの個体数はピーク時から大幅に減少しましたが、依然として五大湖の生態系に影響を与えています。

利用

ウミヤツメは食用としても利用されています。イギリスでは、王室にヤツメウナギのパイを献上する習慣があり、エリザベス2世のダイヤモンドジュビリーではカナダ産のウミヤツメが使用されました。

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