円舞曲 (ちあきなおみの曲)

円舞曲 (わるつ)

「円舞曲（わるつ）」は、情感豊かな歌唱で知られる歌手、ちあきなおみが1974年3月10日にリリースした通算17枚目のシングル盤です。この楽曲は、当時の歌謡界を代表する作詞家である阿久悠と、ちあきの楽曲を初めて手掛けることとなった作曲家・川口真という、強力なクリエイティブ陣によって制作されました。

作詞を担当した阿久悠は、以前にもちあきなおみに「恋した女」（1972年発表）などの作品を提供しており、本作ではおよそ2年ぶりのコラボレーションとなりました。楽曲タイトルの「円舞曲（わるつ）」には、阿久悠の個人的な記憶が深く関わっています。彼は、1949年に公開された吉村公三郎監督の映画『真夏の円舞曲』のタイトルを「ワルツ」と読む慣習が非常に印象に残っており、そこから着想を得てこの独特なタイトルの楽曲を生み出したのです。

本シングルが発売されるにあたり、ちあきなおみが所属するレコード会社であるコロムビアは、積極的なプロモーション戦略を展開しました。レコード会社は、この楽曲の舞台が静岡県賀茂郡河津町であるという設定を独自に行い、河津町の海辺に位置するホテルで大規模なタイアップイベントを実施しました。このイベントには、作詞の阿久悠氏や作曲の川口真氏をはじめとする関係者、メディア関係者など、およそ200名が集まる盛況ぶりでした。このような地域と連携したキャンペーンは、当時としても非常に意欲的な取り組みであったと言えます。

しかし、このレコード会社による「河津町が舞台」という設定について、作詞を手掛けた阿久悠本人は、必ずしも河津町を具体的に想定して歌詞を書いたわけではないと後に述べています。これは、レコード会社のプロモーション戦略と、作者の創作意図との間に生じた興味深い乖離として語り継がれています。

シングル発売からおよそ2ヶ月半後、同年5月25日には、シングルと同名のアルバム『円舞曲』も発売されました。このアルバムは、シングルの成功を受けて企画されたものであり、楽曲「円舞曲」を冠した作品として、ちあきなおみのディスコグラフィにおいても重要な位置を占めています。

シングルの収録曲は以下の2曲です。

• - 円舞曲
• - 女の旅

両曲ともに作詞は阿久悠、作曲・編曲は川口真が担当しています。カップリング曲の「女の旅」もまた、ちあきなおみの歌唱力を存分に引き出す楽曲となっています。

「円舞曲」は発表後、多くの歌手によってカバーされています。代表的なものとしては、1983年に早瀬ひとみがシングル「ちょっと待って大阪」のカップリングとして、また2009年にはあさみちゆきが自身のアルバム『あさみのうたV』に収録しています。これらのカバーバージョンを通じて、時代を超えて多くの人々に歌い継がれています。

この楽曲は、1974年の日本の音楽シーンを彩る一曲として、またちあきなおみの表現者としての多様性を示す作品として、今なお多くの音楽ファンに記憶されています。作詞家と作曲家との稀有な出会い、そしてタイトルに隠されたエピソードやユニークなプロモーション戦略など、多くの側面から語ることができる楽曲と言えるでしょう。

もう一度検索