円通寺 (名古屋市)

円通寺（えんつうじ）は、愛知県名古屋市熱田区神宮に所在する曹洞宗の仏教寺院です。正式には補陀山（ほださん）と号し、本尊として釈迦如来（しゃかにょらい）を安置しています。かつては静岡県の普済寺（ふさいじ）の末寺であったと伝えられています。

地域では親しみを込めて「秋葉山円通寺（あきはさんえんつうじ）」や「羽休の秋葉（はやすめのあきは）」など、いくつかの別称で広く知られています。これらの通称は、円通寺が火防（ひぶせ）の神として信仰される秋葉三尺坊大権現（あきはさんしゃくぼうだいごんげん）と深いつながりがあることに由来しています。

歴史

円通寺の草創は、尾張国の有力な豪族であった尾張氏が、熱田神宮の神宮寺（神宮に付属する寺院）として建立したことに始まるとされています。また、平安時代初期にあたる弘仁年間（810年 - 824年）には、名高い弘法大師空海（くうかい）がこの地を訪れ、自らが彫ったとされる十一面観音像（じゅういちめんかんのんぞう）を安置するために小さな庵を結んだという伝承も残されています。

その後、時代は下り、田島氏によって伽藍（がらん）が整備され、曹洞宗寺院として開かれました。開山には普済寺の二世である誓海義本（せいかいぎほん）禅師（大明禅師）を迎え、「松露山圓通寺（しょうろざんえんつうじ）」と称しましたが、後に山号は現在の補陀山に改められています。寺の開基年については明確な記録がなく、明徳2年（1341年）、嘉吉年間（1441年 - 1444年）、宝徳年間（1449年 - 1452年）など諸説あり、特定の年に定めることは難しい状況です。

江戸時代の宝暦7年（1757年）には、境内の堂宇が大規模に造り直されました。しかし、明治24年（1891年）に発生した濃尾地震（のうびじしん）により、せっかく再建された建物は全て倒壊してしまいました。復興が進められ、明治40年（1907年）には本堂が再建されるなどしましたが、これらの建物も昭和20年（1945年）の名古屋大空襲（なごやだいくうしゅう）によって再び失われてしまいました。

現在の本堂をはじめとする円通寺の伽藍は、第二次世界大戦終結後に再建されたものです。特に秋葉信仰の中心となる秋葉本殿は、昭和35年（1960年）に再建されたものとして知られています。

かつて、円通寺は1,700坪にも及ぶ広大な敷地を有していました。縁日や毎月1日と15日には、境内に見世物小屋やからくり小屋などが立ち並び、多くの人々で賑わいを見せていたといわれています。

秋葉三尺坊信仰と火渡り神事

円通寺が「秋葉山」として広く信仰される背景には、秋葉三尺坊大権現にまつわる古い伝承があります。寺に多くの修行僧が集まっていた頃、その中に一人の僧の姿に身を変えた秋葉三尺坊がいたと伝えられています。彼はこの地で長年にわたり厳しい修行を重ね、永享年間（1429年 - 1441年）についに、火伏せや盗難除けにご利益があるとされる鎮防火燭（ちんぼうかしょく）の秘法を体得したといいます。

その法力を得た喜びから、秋葉三尺坊は自らの本来の姿（不動明王の化身とも言われる）を現し、この円通寺を永遠に守護することを誓ったと伝えられています。この伝承に由来し、円通寺は秋葉三尺坊大権現の霊場として、特に火防や家内安全、商売繁盛などの願いを込めて篤く信仰されるようになりました。

円通寺における秋葉信仰の中心となる行事が、毎年12月16日に厳修される「火渡り神事（ひわたりしんじ）」、通称「火まつり」です。この神事では、境内に四間（約7メートル）四方もの壮大な護摩壇（ごまだん）が築かれ、盛大に炎が焚き上げられます。炎が収まり、燃え盛る護摩木が炭となった上を、まず修験者（山伏）たちが、続いて一般の信徒たちが裸足で渡ります。

この火渡り神事は、火災からの守護をはじめ、一切の災難消滅、身体健全、福徳延命などを祈願して行われます。裸足で熱い炭の上を渡る勇壮な姿は、毎年多くの参拝者の注目を集め、円通寺最大の年中行事として賑わいます。

寺宝

円通寺には、いくつかの重要な寺宝が伝来しています。

• - 十一面観音像: 弘法大師空海が自ら彫刻したと伝えられる像です。
• - 秋葉三尺坊像（伝自刻）: 秋葉三尺坊自身が彫ったとされる像です。
• - 秋葉三尺坊像（大明禅師作）: 開山である大明禅師（誓海義本）が制作したとされる像です。

アクセス

円通寺へは、公共交通機関を利用してアクセスできます。

• - 名鉄名古屋本線・常滑線の神宮前駅から徒歩圏内です。
• - 名古屋市営地下鉄名城線の熱田神宮伝馬町駅からもアクセス可能です。

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