ニトロセルロース

ニトロセルロース：可燃性物質としての歴史と用途

ニトロセルロースは、セルロースを硝酸と硫酸で処理することで得られる、白色または淡黄色の綿状物質です。別名硝酸繊維素、硝化綿とも呼ばれ、その大きな特徴は着火すると激しく燃焼することです。

製造と性質

ニトロセルロースの製造は、セルロースの硝酸エステル化反応によって行われます。セルロースのグルコース分子あたり、最大3箇所の硝酸エステル化が可能です。そのため、窒素含有量によって、強綿薬（窒素13%以上）、弱綿薬（10～13%）、脆綿薬（10%未満）に分類されます。

ニトロセルロースはフィルム強度が高く、溶媒の速乾性に優れているため、様々な用途に用いられてきました。可塑剤や樹脂、顔料などを添加することで特性を調整することも可能です。樟脳との混合によって作られるセルロイドは、世界最初の熱可塑性合成樹脂として知られています。

しかし、ニトロセルロースは高い可燃性と経年劣化の問題を抱えています。そのため、フィルムやセルロイドの用途は、より安全な合成樹脂に取って代わられました。

用途

現在、ニトロセルロースの主な用途は、ラッカー塗料、火薬、接着剤です。かつてはロケットエンジンの推進剤としても使用されていました。また、手品などで紙を瞬時に燃やす際に用いられるフラッシュペーパーやフラッシュコットンも、ニトロセルロースの一種です。灰を残さずに燃える性質が、これらの用途に利用されています。

火薬としてのニトロセルロース

ニトロセルロースは、様々な添加剤を加えて造粒することで火薬として利用されます。黒色火薬に代わり、小火器や火砲の発射薬として広く用いられており、黒色火薬と比べて白煙が少ないことから無煙火薬と呼ばれています。

ニトロセルロースのみを使用した火薬はシングルベース火薬と呼ばれ、現在でも多くの拳銃やアサルトライフルの弾薬に使用されています。ニトロセルロースにニトログリセリンを加えたものはダブルベース火薬、さらにニトログアニジンを加えたものはトリプルベース火薬と呼ばれ、大口径火砲の装薬などに用いられています。コルダイトもニトロセルロースを主成分とする火薬の一つとして有名です。

ナイトレートフィルム

ニトロセルロースは、かつて映画フィルム（ナイトレートフィルム）のベースとしても使用されていました。しかし、その高い可燃性から、数々の火災事故を引き起こし、多くの貴重な映画フィルムが失われました。1937年のフォックス保管庫火災などがその代表例です。そのため、現在では安全フィルムに置き換えられています。現在、ナイトレートフィルムは貴重な文化遺産として、厳重な管理下で保管されています。

ナイトレートフィルムは、経年劣化も激しいため、FIAF（国際フィルム・アーカイブ連盟）では、その劣化度合いを5段階で分類しています。

歴史

ニトロセルロースに関する研究は、19世紀初頭にさかのぼります。1832年、アンリ・ブラコノーが澱粉や綿を濃硝酸で処理することで強燃性の物質を得ることに成功しました。その後、テオフィル＝ジュール・ペルーズ、クリスチアン・シェーンバインらの研究を経て、火薬としての応用が発見され、1886年にはポール・ヴィエイユがB火薬として実用化しました。さらに、1889年にはフレデリック・エイベルとジェイムズ・デュワーにより、より安定したコルダイトが発明されました。

製造工程と事故

ニトロセルロースの工業的な製造は、セルロースを硝酸と硫酸の混酸で硝化する方法で行われます。製造工程では、硝化、精製、加工の各段階があり、それぞれの工程で細心の注意が必要です。

過去には、製造過程での不具合による自然発火事故が数多く発生しています。特に、酸の洗い残し、繊維の裁断不良、硝化度の不均一、不純物の混入などは、自然発火や不発弾薬の原因となります。保管においても、摩擦による発火を防ぐため、アルコールなどで湿潤させる必要があります。1964年の品川勝島倉庫爆発火災は、ニトロセルロースの湿潤不良が原因と推定されています。

ニトロセルロースは、その高い可燃性と経年劣化の問題から、現在では用途が限定されていますが、その歴史と特性は、化学史において重要な位置を占めています。

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