出来心

出来心（できごころ）

『出来心』は、日本の古典落語の演目の一つで、別名『花色木綿』と呼ばれています。この噺は泥棒を主人公にした滑稽なストーリーで、十返舎一九の『江戸前噺鰻』に収められた「ぬす人」が原話で、類話として寛政頃の『絵本噺山科』にある「しな玉」があります。

あらすじ

物語は、間抜けな泥棒が主人公で、彼の「出来心」によって奇妙な事件が展開されます。ある日、兄貴分から「広い庭のある家に侵入しろ」と指示された泥棒は、間違えて公園に忍び込んでしまいます。また、「電話でも引いてあってこぢんまりしたところを狙え」と言われると、うっかり交番に盗みに行く始末です。そんな彼は、兄貴分にも見限られ、「泥棒を廃業しろ」と言われて落ち込んでいました。

彼は自分の実力を証明するため、ある貧乏長屋に忍び込むことにします。しかし、部屋の中はとても乏しい状況で、物色をしている最中に家主が帰宅してしまいます。驚いた泥棒は、急いで縁の下に隠れました。そこで、入れ違いで入ってきた家主の八五郎は、荒らされた室内を見て激しく驚き、すぐに家主を連れて戻ってきます。

実は八五郎は、家賃を支払えずに困っており、泥棒による被害を口実に家賃を免除してもらおうと計画していました。彼は家主に「泥棒に入られて金を持って行かれた」と告げ、被害届を出すと言われると、焦った八五郎は家主が挙げる「泥棒が盗って行きそうな物」をすべて盗まれたと嘘をついてしのぎます。

ところが途中で布団の話が出ると、なんとそれを裏地が花色木綿であると答えてしまいます。この後、家主が挙げた洋傘やタンスなども同様に「裏が花色木綿」と言ってしまうため、会話がどんどんおかしな方向に進んでしまいます。そんな矢先、泥棒が登場し、八五郎の嘘がばれてしまいます。

結局、泥棒は家主に事情を説明します。「出来心で」と答えた彼に、家主は許しを与えます。次に八五郎が嘘をついた理由を訊かれた際、同じく「つい、出来心で」と答えてしまうのです。

サゲのバリエーション

サゲの部分は、家主が泥棒に入った理由を追求するところまでは同じですが、泥棒が「裏が花色木綿」と答えたり、「どこから入ったのか」という問いに対して「裏です」と言い、その後「裏のどこだ？」と聞かれると「裏は花色木綿」と答えることが多いです。このような場合、演目は『花色木綿』として知られています。

その他の情報

「花色木綿」に使われている「花色」という表現は、ツユクサの色合いを指します。この青色は藍染の紺に近い色合いで、ツユクサの別名「縹（はなだ）」から派生した言葉です。また、泥棒が尋ねる「田中利助」という名前は、2代目三遊亭円歌の本名であり、落語家によって使われ続けています。上方落語の『花色木綿』は主に笑福亭一門によって演じられます。

このように『出来心』は、滑稽さとともに人間の弱さや思わぬ事情の面白さが描かれた、今も多くの人々に愛される落語の一つです。

もう一度検索