出生主義

出生主義（natalism）

概要

出生主義（natalism）は、人間の生殖を奨励し、より高い出生率の実現を目指す考え方、あるいはそれに立脚した政策全般を指します。これは個人的な価値観としても、また国家的な政策パラダイムとしても現れます。「出生奨励主義（pronatalism）」とも呼ばれ、子供を持たない選択を支持する「反出生主義（anti-natalism）」と対比される概念です。「natalism」という言葉は、フランス語で出生率を意味する「natalité」から派生した「nataliste」に由来し、1971年頃に生まれました。国連の報告によると、出生奨励政策を採用する国の割合は近年増加傾向にあります。

動機

出生主義は、社会的な安定や人類全体の存続を確実にする上で、出産や子育てが望ましい営みであるという考えに基づいています。もし人類が出産を止めれば、種としての存続が危うくなると指摘されることもあります。

宗教との関連

多くの宗教が出産を肯定的に捉え、奨励しており、信者の信仰心と出生率には相関が見られることもあります。ユダヤ教、イスラム教、キリスト教の主要な宗派（カトリック、末日聖徒イエス・キリスト教会など）が出産を推奨しています。一部の保守的なプロテスタントの間には、大家族を積極的に支持する「Quiverfull運動」も存在します。伝統的な価値観を重んじる人々の中には、しばしば中絶や避妊へのアクセスを制限しようとする動きが見られます。パウロ6世の回勅『フマネ・ヴィテ』は、人工的な避妊に批判的な出生主義の立場を示しました。

政治的思想

近年、「世界的な人口減少」への懸念が、特にテクノロジー業界の富裕層や政治的な右派勢力の間で注目されています。ヨーロッパではハンガリーのヴィクトル・オルバーン首相が出生主義を重要な政策に掲げ、アメリカでも著名な支持者が存在します。彼らは出生率の低下が、経済停滞、技術革新の鈍化、社会保障システムへの負担増大につながると主張し、文明の持続可能性が危機に瀕していると警告しています。イーロン・マスク氏は出生率の低下を地球温暖化より深刻なリスクと見ています。

個人レベルの出産意向

実際に子供を持つかどうかの意向は、実際の出生に大きく影響します。出産意向には、育った環境での家族規模の認識、親族や友人からの期待といった社会的圧力、あるいはサポートの有無などが影響します。また、個人の幸福度が高いほど子供を望む傾向が見られますが、子供を持たないことに対する社会的なスティグマも重要な要因です。さらに、経済的な安定や住居の確保といった要素も出産を決断する上で影響を与えます。

出生主義的な政策

政府による出生主義的な政策は、少子化対策として、子供を持つ・育てることへの経済的・社会的インセンティブ提供を目指します。具体的には、税制優遇、出産祝い金、児童手当の支給、育児休暇制度の整備などが挙げられます。子供が少ない世帯へのペナルティを課す国もあります。日本、韓国、シンガポールなどアジアの一部の国では、出生率向上のための介入的な政策が試みられています。スウェデンのような手厚い育児休暇制度を持つ国もありますが、政策効果は経済だけでなく文化・社会構造といった複雑な要因に影響されます。

ポスト共産主義国の事例

ソビエト連邦時代には、初期の教義転換後に家族価値を重視し、中絶制限や保育施設拡大などの出生主義的な政策が実施されました。ソ連崩壊後の出生率低下に対し、ロシアは2006年以降、母親資本プログラムのような金銭的支援を導入しています。ハンガリーでも2019年、3人以上の子を持つ母親への優遇策や保育施設アクセス拡大といった出生主義的な政策が発表されました。

批判

出生主義は、人権や環境問題の観点から批判されることがあります。反出生主義者や環境保護主義者は、生殖の自由への侵害や、人口過多、生態系への過負荷を招く可能性を指摘します。政治的には、近年の動きを極右思想や優生学と関連付けて論じるジャーナリストも存在します。

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