回勅

回勅：ローマ教皇からのメッセージ

回勅とは、カトリック教会における重要な公文書のひとつです。ローマ教皇が全世界の司教に向けて発表するもので、道徳や信仰に関する教皇の考えを示すものです。ただし、教義を決定するものではないことに注意が必要です。

回勅の形式と歴史

回勅は通常、ラテン語で書かれ、その後各国語に翻訳されて公布されます。タイトルは、ラテン語原文の最初の数単語から付けられます。これは「インキピット」と呼ばれる命名方法です。

歴史的には、7世紀以前は司教が発行する文書もencyclicaeと呼ばれていましたが、その後、教皇文書を指すようになりました。日本語の「回勅」は、この教皇文書の意味でのみ用いられます。教皇名で発表される文書には、回勅以外にも使徒的勧告や使徒的書簡などがあります。

近現代の重要な回勅

近現代においては、数多くの重要な回勅が発表されており、社会や教会に大きな影響を与えました。以下に、重要な回勅とその内容をいくつか紹介します。

レオ13世

『レールム・ノヴァールム』（新しきことがら、1891年）: カトリック教会が初めて社会問題に本格的に取り組んだ記念碑的な回勅です。近代資本主義社会における労働者の権利や貧困問題など、当時の社会問題を教会の立場から考察し、解決策を示唆しています。

ピウス11世

『クアドラジェジモ・アンノ』（40周年の記念に、1931年）: 『レールム・ノヴァールム』発表40周年を記念して発表された回勅で、社会問題に関するレオ13世の教えを再確認し、現代社会への適用を試みています。
『ミット・ブレネンダー・ゾルゲ』（燃えるがごとき憂慮をもって、1937年）: ナチズムの台頭を批判した珍しい回勅です。ラテン語ではなくドイツ語で書かれた点が特筆されます。ナチス・ドイツによる人権侵害や非人道的な行為を強く非難し、人道主義の重要性を訴えています。

ヨハネ23世

『マーテル・エト・マジステラ』（母にして教師、1961年）: 『レールム・ノヴァールム』発表70周年を記念して発表され、現代社会における社会問題への対応を改めて訴えています。
『パーチェム・イン・テリス』（地上の平和、1963年）: 冷戦時代の国際情勢を踏まえ、世界平和への道を模索した回勅です。核兵器廃絶や国際協力の重要性を訴えています。

パウロ6世

『ポプロールム・プログレシオ』（諸民族の進展、1967年）: 開発途上国における貧困や格差問題、そして持続可能な開発の重要性を論じています。
『フマーネ・ヴィテ』（人間の生命、1968年）: 人工避妊の問題を取り上げた回勅です。生命の尊厳を強調しつつ、現実的な問題への対応を模索しています。

ヨハネ・パウロ2世

『レデンプトーリス・マーテル』（救い主の母、1987年）: 聖母マリアへの信仰と、その現代社会における意義について論じています。
『ヴェリターティス・スプレンドール』（真理の輝き、1993年）: 道徳倫理問題、特に相対主義への批判を展開しています。
『エヴァンジェリウム・ヴィテ』（いのちの福音、1995年）: 生命倫理に関する問題、特に生命の尊厳を強調した回勅です。

ベネディクト16世

『デウス・カリタス・エスト』（神は愛、2005年）: キリスト教における愛の概念を論じ、現代社会への応用を試みています。
『スペ・サルビ』（希望による救い、2007年）: キリスト教における希望の意義について論じています。
『カリタス・イン・ヴェルサーテ』（真理に根ざした愛、2009年）: 社会における愛の具体的な実践について論じています。

フランシスコ

『ルーメン・フィデイ』（信仰の光、2013年）: キリスト教信仰の現代的意義を論じた回勅です。
* 『ラウダート・シ』（ラウダート・シ――ともに暮らす家を大切に、2015年）: 環境問題に関する回勅です。環境保全の重要性を訴え、持続可能な社会の実現を呼び掛けています。

回勅の意義

回勅は、ローマ教皇の思想や考え方を示すだけでなく、カトリック教会全体の指針を示す重要な文書です。社会問題や倫理問題など、現代社会における様々な課題に対して、教会の立場から示唆を与え続けています。

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