出産旅行

出産旅行とは

出産旅行とは、外国籍の妊婦が、出生地主義を採用している国に入国し、その国で出産することで、生まれた子供にその国の国籍を取得させることを目的とした旅行のことです。特にアメリカ合衆国への出産旅行が広く知られていますが、近年では、カナダなど他の出生地主義国への出産旅行も増加しています。

出生地主義とは

出生地主義とは、生まれた場所を基準に国籍を決定する原則です。現在、主要先進国で出生地主義を採用しているのは、アメリカ合衆国とカナダのみです。かつては、オーストラリア、ニュージーランド、アイルランドも出生地主義を採用していましたが、出産旅行者の増加などの理由により、法改正が行われ、出生地主義は撤廃されました。

出産旅行の背景

出産旅行の背景には、様々な要因があります。

国籍取得: 出生地主義を採用している国で生まれた子供は、その国の国籍を取得できるため、子供の将来の選択肢を広げることができます。
教育: アメリカやカナダなどの先進国では、教育制度が充実しており、子供に質の高い教育を受けさせたいという親の願望があります。
医療: 先進国の医療技術は高く、出産時の安全性を求める親がいます。
亡命: 一部のケースでは、自国での政治的、社会的な不安から、子供に外国の国籍を取得させ、将来的な亡命の可能性を残すことを目的とする場合があります。

出産旅行の現状

出産旅行は、1990年代から中華圏の富裕層を中心に増加し、2000年代以降は、中国本土の都市居住者にも広がりました。また、韓国では、兵役逃れのために出産旅行が行われるケースもありました。

現在では、メキシコ、韓国、中国、台湾などからの旅行者が多く、東ヨーロッパからの出産旅行者も増加傾向にあります。ロシア人妊婦がアルゼンチンへ出産旅行する例もあります。

出産旅行はビジネスとしても成立しており、母国語が通じる妊産婦ケア施設が存在するなど、商業化が進んでいます。

出産旅行のリスクとコスト

出産旅行には、多額の費用がかかります。特にアメリカでは、医療費が高額であり、日本からの海外旅行保険では妊娠・出産費用はカバーされないため、全額自己負担となります。

また、妊婦の航空機搭乗は、早産や新生児の合併症などのリスクを伴います。2015年には、カリフォルニア州で出産予定だった台湾人妊婦が機内で破水し、出産する事件も発生しています。

さらに、アメリカやカナダでは、日本国籍者は通常90日間のノービザ滞在が可能ですが、出産に必要な手続きには90日以上かかる場合があり、滞在期間超過のリスクも存在します。

アメリカ合衆国での出産旅行

アメリカでは、アメリカ合衆国憲法修正第14条により、アメリカ本土と海外領土で生まれた全ての子供に、無条件でアメリカ市民権が与えられます。

アメリカ生まれの子供は、21歳になると、家族を呼び寄せてアメリカ国籍や永住権を取得させることが可能です。

アジア系の外国人妊婦は、出産斡旋業者を通じてカリフォルニア州に滞在することが多く、2015年時点で、在米外国人の出生数は40万人にのぼると推計されています。

2016年のトランプ政権発足後、アメリカ本土への妊婦に対するビザ発給が厳しくなり、グアムやサイパンなど、電子渡航認証システムが不要な地域が注目されています。

ハワイでの出産は「ハワイ出産」として知られ、1990年代に芸能人を中心に流行しました。

アメリカでは戸籍制度がないため、病院や産婦人科の職員が出生証明書や社会保障番号の発行手続きを行います。

日本人の場合、アメリカで生まれた子供は、22歳までに日本とアメリカのいずれかの国籍を選択する必要がありますが、アメリカでは多重国籍が認められています。また、男児の場合は18歳になると徴兵名簿への登録義務が生じます。

アメリカ領サモアなどのアメリカ海外領土で生まれた子は、アメリカ市民ではなくアメリカ国民となり、アメリカ市民権はありませんが、米国本土でほとんどの権利を享受できます。また、外交官の子にはアメリカ市民権は与えられません。

カナダでの出産旅行

カナダでは、1947年以降、カナダ国籍法により、カナダ領土で生まれた全ての子に無条件でカナダ市民権が与えられます。

近年では、アメリカの徴税政策の強化により、カナダも出産旅行先として注目されています。

カナダでは、出生証明書があれば、大学生の学費を減免する制度がある州もあります。

カナダもアメリカと同様に、外交官の子にカナダ市民権を与えません。

その他の国

ニュージーランドでは、2005年に国籍法が改正され、出生地主義は撤廃されました。アイルランドもかつては出生地主義を採用していましたが、2004年に国民投票で事実上撤廃しました。

まとめ

出産旅行は、子供に外国の国籍を取得させるための手段として、様々な国で行われています。しかし、その費用やリスク、また法改正などの問題点も存在します。出産旅行を検討する際は、これらの点を十分に考慮する必要があります。

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