出石鉄道

出石鉄道：但馬地方に花開いた、そして散った軽便鉄道

かつて兵庫県に存在した出石鉄道は、但馬地方の豊かな自然と歴史に彩られた、短いながらもドラマチックな歴史を持つ軽便鉄道でした。大正9年（1920年）の設立から昭和45年（1970年）の廃線まで、地域住民の熱意と幾多の困難が交錯する物語を紐解いていきましょう。

夢の軌跡：出石町と江原駅を結ぶ

山陰本線が開通した際、出石町は鉄道網から外れることとなり、経済的な打撃を受けました。この状況を打破するため、地元住民78名による出資で出石軽便鉄道株式会社（後に出石鉄道株式会社に改称）が設立されました。困難な資金調達や工事中断を乗り越え、昭和4年（1929年）、念願の江原-出石間が開通しました。全長11.2km、7つの駅を結び、ガソリンカーや蒸気機関車が運行されました。

栄光と苦悩：幾多の試練

開業当初は順調に推移し、旅客数や貨物輸送量も増加しました。国鉄からの車両譲渡や貨物連絡運輸の実施など、経営努力も重ねられました。しかし、経済不況や度重なる自然災害、特に室戸台風による橋梁流失は大きな痛手となり、経営は常に赤字に苦しみました。社長が私財を投じて従業員の給料を支払っていたというエピソードは、その苦境を物語っています。

戦時下の影：不要不急線

太平洋戦争が始まると、出石鉄道は「不要不急線」に指定され、資材の供出を命じられました。昭和19年（1944年）、大部分の路線が休止となり、レールなどが撤去されました。残された線路は、円山川の河砂輸送のために使われましたが、それも長くは続かず、終戦後も復活の機運は高まりましたが、様々な要因により、実現には至りませんでした。

廃線とその後：新たな道へ

昭和45年（1970年）、出石鉄道は正式に廃線となりました。鉄道事業の終焉とともに、バスやトラックによる運輸事業も停止しました。出石鉄道は地域住民の夢と努力の結晶でありながらも、時代の波に翻弄され、廃線という結末を迎えたのです。しかし、その歴史は、但馬地方の鉄道史に重要な一ページとして刻まれ、現在も多くの人の記憶に残っています。

路線データと車両

路線距離: 11.2km
軌間: 1067mm
駅数: 7駅
車両: ガソリンカー、蒸気機関車、客車、貨車など

出石鉄道で使用された車両は、国鉄からの払い下げや、地元工場での製造など、様々な経緯で調達されました。ガソリンカーは故障が多く、蒸気機関車も力不足という状況の中、限られた資源と技術で運行を維持しようと努力が続けられました。

廃線後の姿

現在、出石鉄道の線路跡は、一部が道路や遊歩道として利用されています。かつての駅舎や橋梁の遺構も、当時の面影を偲ばせる痕跡として残されています。廃線から半世紀以上が経過した現在でも、出石鉄道の物語は、地域住民の記憶の中に生き続け、そして語り継がれているのです。

参考文献

神戸新聞総合出版センター『ひょうご懐かしの鉄道 廃線ノスタルジー』
今尾恵介（監修）『日本鉄道旅行地図帳 - 全線・全駅・全廃線』
* 安保彰夫『出石鉄道 - 二千人の株主が支えた鉄道 -』

これらの資料から、より詳細な情報を得ることができます。

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