函館水電10形電車

函館水電10形電車：函館市電黎明期の路面電車

函館水電10形電車は、函館水電（後の函館市交通局、現在の函館市電）が電化初期に導入し、増備した路面電車のグループです。函館の街を駆け抜けたこれらの車両は、その構造や経歴において、様々な特徴を持っていました。

概要

函館水電が函館馬車鉄道を買収後、電化に備えて導入されたのが10形電車です。初期に導入されたグループは、運転台付近に窓を持つベスビチュール付きの開放式単車というスタイルでした。

車両ごとの詳細

1 - 25号

1913年（大正2年）に梅鉢鉄工所で製造されたグループで、函館市電の開業に合わせて導入されました。設計認可も同年6月27日に下りています。丸屋根が特徴で、台車にはブリル21E、主電動機にはゼネラル・エレクトリックGE-54A（18.4kw、550V）を2台搭載していました。
鉄道歴史家の星良助氏によれば、このグループは、かつて存在した和歌山水力電気株式会社（南海電鉄和歌山軌道線）が開業時に導入した1型1 - 25号と同スタイルの車両だったとされています。

各車両の経歴は以下の通りです。

1号〇:1913年（大正2年）函館水電1号:1926年（大正15年）4月廃止
2号〇:1913年（大正2年）函館水電2号:同上
3号:1913年（大正2年）函館水電3号:昭和13年帝国電力3号:昭和16年大日本電力11号（3代）に改番:昭和17年道南電気軌道11号（3代）:昭和18年函館市交通局11号（3代）:1954年（昭和29年）12月22日廃止
4号▲:1913年（大正2年）函館水電4号:1934年（昭和9年）4月12日廃止
5号▲:1913年（大正2年）函館水電5号:同上
8号▲:1913年函館水電8号:1917年に東久邇宮稔彦王がご乗車された:1934年4月12日廃止
23号▲:函館水電23号:函館水電2代目11号（推定）:同年4月12日廃止
25号：1917年に東久邇宮稔彦王の随員用に使われた。1926年廃止。

26 - 30号

西鉄福岡市内線の元となった九州水力電気から1915年（大正4年）に購入されたグループです。1911年（明治44年）に川崎造船所鉄道部で製造された二重屋根の車両で、1915年（大正4年）11月12日に函館での設計認可がされています。九州水力電気時代の旧車両番号は116号から123号のいずれかであったものの、どの番号が函館のどの番号になったかは不明です。搭載機器も不明な点が多いですが、主電動機は20.68kwのものを2台搭載していました。

各車両の経歴は以下の通りです。

26号〇:1911年（明治44年）九州水力電気（番号不明）:大正4年函館水電26号:1926年（大正15年）4月10日廃車
27号〇:1911年（明治44年）九州水力電気（番号不明）:大正4年函館水電27号:同上
28号〇:1911年（明治44年）九州水力電気（番号不明）:大正4年函館水電28号:同上
29号:1911年（明治44年）九州水力電気（番号不明）:大正4年函館水電29号:1937年（昭和12年）3月8日帝国電力排形排1号に改造:昭和46年空気制動設置:1997年（平成9年）3月26日廃車
30号▲:1911年（明治44年）九州水力電気（番号不明）:大正4年函館水電30号:1934年（昭和9年）4月12日廃車

31 - 35号

東京市電から1形5両を1917年（大正6年）に購入したグループです。窓配置はV10V、屋根は二重屋根で、二段絞りの車体を持っていました。主電動機はゼネラル・エレクトリックGE-54A（18.4kwを2台）、台車は米国ペックハムB8でした。元々は明治36年から37年にかけて製造された東京電車鉄道の車両でした。

各車両の経歴は以下の通りです。

31号〇:東京電車鉄道246号（製造は日本車輌製造）→東京市電気局1形（初代）ヨト246号→函館水電31号
32号〇:東京電車鉄道247号（製造は東京馬車車体）→東京市電気局1形（初代）ヨト247号→函館水電32号
33号〇:東京電車鉄道248号（製造は名古屋車体）→東京市電気局1形（初代）ヨト248号→函館水電33号
34号〇:東京電車鉄道249号→東京市電気局1形（初代）ヨト249号→函館水電34号
35号〇:東京電車鉄道250号→東京市電気局1形（初代）ヨト250号→函館水電35号

新川車庫火災により、このグループは全車1926年（大正15年）4月に廃車となっています。

36 - 40号

成田電気軌道より1918年（大正7年）に購入したグループです。二重屋根が特徴で、1910年（明治43年）に天野工場で製造されました。製造当初の主電動機はドイツのアルゲマイネ25馬力2台でしたが、後に神鋼鳥羽MT-60（37.3kw×2）に換装されました。台車はマウンテンギブソン21EMでしたが、ブリル21Eに変更されています（時期は不明）。

各車両の経歴は以下の通りです。

36号▲:成宗電気軌道デハ1形→成田電気軌道デハ1形→函館水電10形36号→1934年（昭和9年）4月12日廃車
37号〇:成宗電気軌道デハ1形→成田電気軌道デハ1形→函館水電10形37号→1926年（大正15年）廃車
38号▲:成宗電気軌道デハ1形→成田電気軌道デハ1形→函館水電10形38号→1934年（昭和9年）4月12日廃車
39号:成宗電気軌道デハ1形→成田電気軌道デハ1形→函館水電10形39号→帝国電力10形39号→帝国電力排形2号→大日本電力排形2号→道南電気軌道排形2号→函館市交通局排形2号→函館市交通局30形39号→函館市企業局交通部30形39号
40号〇:成宗電気軌道デハ1形→成田電気軌道デハ1形→函館水電10形40号→1926年（大正15年）廃車

39号のみ、札幌交通機械により除雪車から旅客車に復元され、現役で活躍しています。

41 - 46号

1919年（大正8年）に導入された、ベスティビュール付き丸屋根開放式付随単車で、特等車として運用されました。梅鉢鉄工所製で、台車は国産品の丹羽式を採用していました。主電動機の取り付けも可能でしたが、当初は付随車として使用されました。1916年（大正5年）に連結運転の許可を申請し、1917年（大正6年）に受けています。50形導入に伴い普通車に改造され、後に電装化されました（時期不明）。その後、100形に編入されましたが、新川車庫火災および函館大火で被災し、廃車されています。

各車両の経歴は以下の通りです。

41号▲:1919年（大正8年）函館水電41号:函館水電100形109号:1934年（昭和9年）廃止
42号▲:1919年（大正8年）函館水電42号:函館水電100形110号:同上
43号▲:1919年（大正8年）函館水電43号:函館水電100形111号:同上
44号〇:1919年（大正8年）函館水電44号:1926年（大正15年）4月10日廃止
45号〇:1919年（大正8年）函館水電45号:同上
46号▲:1919年（大正8年）函館水電46号:函館水電100形112号:1934年（昭和9年）廃止

53 - 59号

旧東京市電ヨシ251形7両です。

54号：昭和4年1月19日函館水電54号（廃車部品再利用）：1934年（昭和9年）4月12日廃止
55号：昭和4年1月19日函館水電54号（廃車部品再利用）：同上

参考文献

日本の市内電車-1895-1945-　和久田康雄　成山堂書店　2009年　ISBN 9784425961511
函館の路面電車100年　函館市企業局交通部編　北海道新聞社　2013年　ISBN 9784894537026
北海道の私鉄車両 　澤内一晃 星良助 北海道新聞社 2016年　ISBN 9784894538146

関連項目

* 阪神67形電車 / 阪神501形電車 - 主電動機がGE-54A形を採用していた電車

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