分枝鎖アミノ酸

分枝鎖アミノ酸（BCAA）

分枝鎖アミノ酸（Branched-Chain Amino Acids、BCAA）とは、分子構造中に枝分かれした炭素の連なりを持つアミノ酸の総称です。具体的には、ロイシン、イソロイシン、バリンの三つのアミノ酸を指します。

概要

これらのアミノ酸は、ヒトを含む多くの哺乳類において必須アミノ酸であり、体内で十分に合成することができないため、食事からの摂取が不可欠です。特に骨格筋のタンパク質を構成する必須アミノ酸のうち、約35%を占めており、全身の必須アミノ酸プールにおいても重要な割合（約40%）を占めています。その生理的な重要性から、火傷などの外傷時や、肝機能の低下による肝性脳症といった特定の病態に対する臨床的な治療アプローチにも利用されています。

代謝経路

分枝鎖アミノ酸は、他のアミノ酸とは異なり、主に肝臓ではなく筋肉などで代謝されます。その分解過程には、分枝鎖α-ケト酸デヒドロゲナーゼ複合体（BCKDH）という重要な酵素複合体が関与しています。この複合体は、分枝鎖アミノトランスフェラーゼによって生成された分枝鎖α-ケト酸を、さらなる代謝経路へと導きます。BCKDH複合体の働きによって、分枝鎖アミノ酸はアシルCoA誘導体へと変換され、最終的にはエネルギー産生経路であるクエン酸回路の中間代謝物（アセチルCoAやスクシニルCoA）として組み込まれ、エネルギーとして利用されるか、他の生体分子の合成に用いられます。

代謝異常

BCKDH複合体の遺伝的な欠損や機能不全が生じると、分枝鎖アミノ酸とその代謝中間物である毒性のあるα-ケト酸が血液や尿中に異常に蓄積します。この代謝異常症は、特徴的な甘い匂いの尿が出ることからメープルシロップ尿症（楓糖尿症）と呼ばれ、神経系に重篤な障害を引き起こす可能性があります。

サプリメントとしての利用

運動後の栄養補給として、分枝鎖アミノ酸がサプリメントの形で広く利用されています。特に、運動による筋損傷の軽減、疲労感の抑制、そして筋肉痛の緩和といった効果が期待されており、多くのアスリートや運動愛好者によって摂取されています。

疾病との関連性

近年の研究では、血中の分枝鎖アミノ酸濃度が高いことが、特定の疾患リスクとの関連性を示唆する報告もあります。例えば、血液中の分枝鎖アミノ酸濃度が高いほど、膵臓がんの罹患リスクが上昇する可能性が指摘されています。ただし、これらの関連性については、さらなる研究による詳細なメカニズムの解明が待たれています。

もう一度検索