切り絵

切り絵：日本の伝統と現代美術の融合

切り絵は、紙を精密に切り抜いて作品を制作する伝統的な技法です。紙を切り抜いて台紙に貼り付けることで、様々なモチーフを表現します。白黒のコントラストや、刃物で切り出した独特の線を生かした造形美が魅力で、古くから世界各地で愛されてきました。

歴史と文化

日本では、切り絵は古くから神道の儀式に使用されてきました。飛騨高山、青森県、出雲地方などには、奈良時代から続く伝統的な切り絵の様式が現在も残っています。その後、染物師が彩色用の型紙として切り絵を利用するようになり、一般に広まりました。

東北地方では、正月に「オカザリ」と呼ばれる切り紙飾りを用いる習慣があり、これは梵天や切り透かしなどとも呼ばれています。岩手県、宮城県の三陸海岸沿いや内陸部、仙台市周辺などで見られます。

京都の京友禅における「型友禅」の制作工程にも「型彫り」という、切り絵の技法を用いた工程が存在します。現代の切り絵作家である三代目蓮蔵（本名山川勝雪）氏は、この伝統的な技法を受け継ぎ、独自の表現を追求しています。

中国では切り絵は「剪[[紙]]」と呼ばれ、民間のお守りとして親しまれてきました。中国の剪[[紙]]は世界遺産にも登録されています。日本への伝来については、仏教伝来とともに伝わったとする説と、内山完造氏によって日本から中国に伝えられたとする説があります。

キリスト教圏では、教会で礼拝のしるしとして配られる「キャニヴェ」と呼ばれる切り絵があります。聖人の肖像や聖句が描かれたカードに、ペーパーレース風の縁取りが施されています。洗礼の祝いのメッセージが添えられているものもあります。

技法と制作過程

切り絵の基本は、黒い紙からモチーフを切り抜き、白い紙に貼り付けるモノクロームの作品です。

1. まず、モチーフをスケッチし、白黒で下絵を作成します。この際、輪郭線は全て繋がっているように描く必要があります。
2. 下絵を黒画用紙などに固定し、デザインカッターなどで不要な部分を丁寧に切り抜いていきます。
3. 裏面に糊を塗り、白い台紙に貼り付けて完成となります。

カラー切り絵

切り絵は白黒が基本ですが、カラー作品も存在します。

色紙を裏から貼り付ける
台紙に色紙を貼り、その上に切り絵を重ねて貼り付ける
作品の輪郭線を台紙に写し、絵具で着色してから作品を重ねて貼り付ける
完成した作品に絵具で着色する

様々な手法があり、彩色方法や使用する材料で表現の幅が広がります。

道具と材料

切り絵制作には、デザインカッター、スプレー糊、水のり、カッターマット、金定規、ピンセットなどを使用します。材料には、黒紙（和[[紙]]や洋紙）、色和[[紙]]、絵具などがあります。和[[紙]]は切れにくいが刃の消耗が少ない、洋紙は切れやすいが刃の消耗が激しいという違いがあります。

切り絵の認知度と現代の表現

日本では「貼り絵」や「ちぎり絵」と混同されるなど、切り絵の認知度は高くありません。しかし、多くの愛好家がおり、伝統的な技法にとらわれない新しいスタイルも生まれています。

世界各地には、それぞれの文化に根付いた独特の切り絵が存在します。ポーランドの「ヴィチナンキ」や「コドラ」、ヨーロッパのシルエット風の切り絵など、多様な表現があります。宮沢賢治の作品にも、シルエット画法の影響が見られるとされています。

20世紀には、アンナ・デ・ワールなどの著名な切り絵作家が活躍しました。現代では、ペレグ＝ディション氏のように、立体的な切り絵作品を制作するアーティストもいます。

参考文献

今井田勲『季刊銀花』第32号冬、文化出版局、1977年12月30日
座右宝刊行会 編『現代世界美術全集』第8巻、河出書房新社、1966年
鈴木岩弓、加藤寛、山崎環『仙台旧城下町に所在する民俗文化財調査報告書 仙台の正月飾り』、仙台市教育委員会、2010年
『夏の特別展祈りの伝承切り紙：東北地方を中心に』、北上市立博物館、1983年
千葉惣次『東北の伝承切り紙：神を宿し神を招く』、平凡社、2012年
中村文昭「「銀河鉄道の夜」--そのシルエット画法(ザネリと鳥捕りをめぐって)」『宮沢賢治』第1号、洋々社、1981年
三山陵（著）、広報委員会（編）「中国の民間美術-「剪[[紙]]」-暮らしの中の切り紙細工」『日中建築住宅情報』、日中建築住宅産業協議会、1994年
『日中藝術研究』第33号、日中藝術研究会、1995年

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