別世界物語

『別世界物語』：宇宙三部作の深淵に迫る

C・S・ルイスが1938年から1945年にかけて発表した『別世界物語』（英：Space Trilogy）は、単なるSFやファンタジーとは一線を画す、独特の世界観を持つ幻想小説の三部作です。正式なシリーズ名は存在せず、「Cosmic Trilogy」や「Ransom Trilogy」など、様々な呼び名で海外でも知られています。

ルイスのキリスト教的価値観が色濃く反映された本作は、『アルクトゥールスへの旅』や『月世界最初の人間』といった作品からの影響も見て取れます。火星と金星を舞台にしたファンタジー的な描写が特徴的な第一作『マラカンドラ』と第二作『ペレランドラ』では、主人公ランサムが語り手である著者に対して自身の体験を語る形式が用いられています。一方、第三作『サルカンドラ』は舞台をイギリスの片田舎に移し、一般的な三人称小説のスタイルを取っています。

作品には、著者の言語学者としての知識が随所に盛り込まれています。「古太陽系語」という、太陽系の各惑星の共通祖語が設定されているなど、緻密な世界構築が魅力です。

主要登場人物

登場人物たちは、それぞれの舞台で重要な役割を果たし、物語に深みを与えています。

エルウィン・ランサム: ケンブリッジ大学の言語学教授。本作の主人公であり、『マラカンドラ』と『ペレランドラ』では、異なる惑星の住民と出会う度に、その言語を分析し、意思疎通を図ります。『サルカンドラ』でも重要な役割を担います。
ウェストン博士: 天才的な物理学者ですが、傲慢で冷酷な性格です。
ディック・ディヴァイン: ウェストンの信奉者で、ランサムの元同級生でもあります。『サルカンドラ』で再登場します。
女王: 金星の海を浮遊する島で、動物たちと共存しています。
マーク・ゲインズビー・スタッドドック: 社会学者で、『サルカンドラ』の主人公の一人です。
ジェーン・チューダー・スタッドドック: マークの妻で、『サルカンドラ』の主人公の一人です。
フランソワ・アルカサン: フランスの科学者で、『サルカンドラ』に登場します。
アンブロシウス・メルリヌス: アーサー王伝説に登場する魔術師マーリンで、『サルカンドラ』に登場します。

用語解説

物語を理解するために重要な用語を解説します。

エルディル: 神的なエネルギー存在です。
オヤルサ: 各惑星に存在する神的な存在です。
マラカンドラ: 火星のことです。
ペレランドラ: 金星のことです。
サルカンドラ: 地球のことです。
古太陽系語: 太陽系の各惑星の共通祖語です。ランサムはこの言語を分析することで、各惑星の住民と会話します。
NICE: 科学者らによって設立された研究機関ですが、地方自治権や独自の警察を持つなど、国家内国家のような閉鎖的なコミュニティとなっています。

シリーズ一覧と邦題

邦題は作品ごとに異なり、安定した訳題はありません。ここでは、筑摩書房の翻訳版のタイトルを主に使用します。

マラカンドラ（沈黙の惑星を離れて）：火星が舞台。
ペレランドラ（ヴィーナスへの旅）：金星が舞台。
サルカンドラ（いまわしき砦の戦い）：地球が舞台。

各作品は、それぞれ異なる翻訳者、出版社によって様々な邦題で出版されています。 例えば『マラカンドラ』は、『沈黙せる遊星』、『沈黙の惑星より』、『沈黙の惑星を離れて―マラカンドラ・火星編』など、複数の邦題で出版されています。

まとめ

『別世界物語』は、SF、ファンタジーの枠にとらわれない、独自性の高い幻想小説です。キリスト教的思想、緻密な世界観、魅力的な登場人物、そして言語学的な要素が融合した本作は、読者に深い思考と感動を与えてくれます。様々な翻訳版が存在することからも、その人気と影響力の高さがうかがえます。

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