別枝達夫

別枝 達夫（べっし たつお）

別枝達夫（1911年1月1日 - 1978年6月28日）は、20世紀日本の歴史学を牽引した一人であり、特にイギリスの海事史分野において顕著な業績を残した研究者です。

鹿児島県の出身である別枝は、学問の道を志し、1934年に東京帝国大学（現在の東京大学）の西洋史学科を卒業しました。大学で西洋史の基礎をしっかりと学んだ後、教育者としてのキャリアをスタートさせ、成蹊大学で助教授として教壇に立ちました。教育・研究活動に精力的に取り組んだ結果、その実力が認められ、1962年には同大学の教授に昇進し、後進の指導にも力を注ぎました。

別枝の研究の核心は、イギリスの海事史、すなわち海を舞台とした歴史の探求にありました。国家の興隆や貿易、探検、そして時には海賊といった要素が複雑に絡み合う海洋世界史を深く掘り下げ、その成果を多くの著作として発表しました。彼の著作は専門的な研究書にとどまらず、一般の読者にも分かりやすく歴史の面白さを伝えるものも多く、歴史学の普及にも貢献しました。

代表的な単著としては、海賊という興味深いテーマを通して権力との関係性を考察した『キャプテン・キッド 権力と海賊の奇妙な関係』（中公新書、1965年）や、海事史を彩る様々な出来事や人物に焦点を当てた『海事史の舞台 女王・海賊・香料』（みすず書房、1979年）、さらに海賊たちの歴史的な系譜をたどる『海賊の系譜』（誠文堂新光社、1980年）などがあり、海賊史研究の第一人者としての顔も持ち合わせていました。また、イギリス史における重要な人物であるエリザベス一世を取り上げた『エリザベス一世』（平凡社、1979年）や、初期の著作である『西洋の歴史』（牧書店、1954-1956年）や『文明の始まりから封建社会』（牧書店、1962年）など、幅広いテーマで歴史を論じています。

他の研究者との共同作業も行いました。今井登志喜氏との共著『100万年の人間ものがたり』（小学館、1949年）では人類の長い歴史を、護雅夫氏との共著『絹の道と香料の島』（文芸春秋、1968年）では、交易路をテーマに世界史の一断面を描き出しています。

さらに、海外の重要な歴史研究や関連文献の翻訳も多数手がけ、日本の歴史学界に海外の知見を紹介する役割も担いました。ジョン・リチャード・グリーンの『イギリス史物語』（あかね書房、1962年）や、海賊研究で知られるC・ジョンソンの著作の一部を収めた「悪名高い海賊たち」（筑摩書房、『世界ノンフィクション全集48』、1963年）、アンドレ・J・ブールドの『英国史』改訂新版（白水社、1976年）、ウィリアム・ネーピアによる探検史『香料と財宝を求めて』（集英社、1976年）など、その翻訳リストは多岐にわたります。

別枝達夫は、生涯を通じて歴史研究と教育に情熱を注ぎ、特に英国海事史や海賊史といったユニークな専門分野を深く掘り下げ、多数の著作や翻訳を世に残しました。彼の研究成果は、今日の日本における西洋史、とりわけ海洋史やイギリス史の研究において、依然として重要な位置を占めています。

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