制酸薬

制酸薬（せいさんやく Antacid）

制酸薬は、胃や十二指腸といった上部消化管の過剰な胃酸を中和し、これによって引き起こされる不快な症状を和らげるために用いられる医薬品です。胃酸の量を調整することで、粘膜への刺激を軽減し保護する作用があり、消化性潰瘍や胃食道逆流症、胸焼け（heartburn）、胃炎など、胃酸に関連する様々な症状の緩和を目的として使用されます。

分類

制酸薬は、その作用機序によって主に以下の二つに大別されます。

1. 胃酸を中和するもの（酸中和型）
既に分泌された胃酸に対して作用し、酸性を弱めます。主成分は金属化合物で、体内に吸収される程度が成分により異なります（ナトリウム、カルシウムは吸収されやすく、マグネシウム、アルミニウムはほとんど吸収されない）。
主要な成分：
ナトリウム系: アルギン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム（重曹）
カルシウム系: 炭酸カルシウム
マグネシウム系: 炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、三ケイ酸マグネシウム
アルミニウム系: 水酸化アルミニウムゲル
複合型: 水酸化アルミニウム・マグネシウム合剤（合成ヒドロタルサイトなど）

2. 胃酸の分泌自体を抑えるもの（分泌抑制型）
胃酸を作り出す細胞に働きかけ、分泌量を減少させます。強力な効果が期待されますが、処方薬が多く、長期服用に注意が必要です。
主な薬剤の種類：
ムスカリンM1受容体拮抗薬（M1ブロッカー）：ピレンゼピン
プロトンポンプ阻害薬（PPI）
ヒスタミンH2受容体拮抗薬（H2ブロッカー）

注意すべき副作用と相互作用

制酸薬の使用にあたっては、いくつかの注意点や副作用、他の薬剤や食物との相互作用があります。

細菌性食中毒のリスク: 胃酸の殺菌作用が弱まるため、食中毒の発症リスクが上昇する可能性があります。
消化器系の副作用: 便通への影響（マグネシウム系は下痢、カルシウム系は便秘）が見られ、両成分配合で軽減を試みる薬剤もあります。炭酸塩を含む薬剤では、胃酸との反応で二酸化炭素が発生し、腹部膨張感を感じることがあります。
特定の成分による影響:
ナトリウム含有製剤は、高血圧患者の血圧を上昇させる可能性があります。
アルミニウム含有製剤で、稀に甲状腺機能への影響が報告されています。
分泌抑制型薬剤は、長期服用で重篤な副作用を生じることがあります（詳細は各薬剤情報参照）。
腎臓疾患がある場合: 薬剤中のイオン（カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム）排出が不十分となり、高カルシウム血症、高ナトリウム血症、高マグネシウム血症、アルミニウム脳症などの危険性があります。必ず医師や薬剤師に相談してください。
他の薬剤との相互作用:
骨粗鬆症治療薬や一部の抗生物質、抗リウマチ薬の効果が、制酸薬の金属イオンとの結合により弱まることがあります。
腸溶性製剤は、制酸薬で胃内pHが上昇すると胃で溶け出してしまい、効果が得られなくなる可能性があります。
食物との相互作用:
牛乳やカルシウムサプリとの大量同時摂取は「ミルクアルカリ症候群」（高カルシウム血症、頭痛、吐き気など）を引き起こすことがあります。
炭酸飲料は制酸作用の一部を消費し、胃酸への効果を弱める可能性があります。
アレルギー反応との関連性:
胃酸によるタンパク質分解が不十分となるため、分泌抑制型薬剤の長期服用で食物アレルギーを発症・悪化させる可能性が指摘されています（IgE抗体増加の報告あり）。
乳児における制酸薬の長期使用（60日超）は、アレルギー性疾患リスクを上昇させたとする報告があります。

制酸薬は有効ですが、正しく理解し、適切な使用が重要です。特に他の疾患や薬剤服用がある場合は、必ず専門家に相談し指示に従ってください。

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