前田多門

前田 多門（まえだ たもん）

前田多門は、1884年5月11日に大阪府で生まれ、1962年6月4日に亡くなった日本の著名な政治家、実業家、文筆家です。彼は戦前から戦後にかけて、多岐にわたる活動で知られています。

生い立ちと教育

多門は、大阪府で喜兵衛の長男として生まれ、立教中学、一高、東京帝国大学を卒業しました。大学での学びの中で、新渡戸稲造に師事し、学外活動では内村鑑三の聖書研究会に参加するなど、教育に対する探求心を持っていました。また、新渡戸と内村から受けた影響を胸に刻むことで、彼の思想形成に大きな役割を果たしました。

政治家としての活動

内務省に入った前田多門は、1916年に後藤新平の秘書官としてその政治キャリアをスタートしました。後藤の影響を受け、彼は有力な官僚として頭角を現し、1920年には内務大臣官房都市計画課長に就任しました。後藤新平が東京市長に就任すると、前田はその補佐役として活躍します。この時期に彼は「三田二平」と称される協力関係を築きました。

続いて、1925年には第7回国際労働会議に政府代表として参加し、移民制限に対する反対意見を表明しました。これ以降も、1926年、1928年の国際労働会議に参加し、日本政府の代表として国際的な議論に関与しました。

文筆家および文化活動

1928年から1938年までは「朝日新聞」の論説委員を務め、その後ニューヨークの日本文化会館の館長に就任しました。1941年の日本の開戦に際しては、文化会館の閉鎖に奔走し、その結果アメリカに留まることとなりました。帰国後、1943年には新潟県知事に任命され、地方行政にも携わりました。

教育改革と公職

1945年、貴族院議員に選出され、東久邇宮内閣で文部大臣に就任しました。彼はこの時期に教育改革を進め、戦後の日本社会において重要な役割を果たしました。しかし、戦時中の公職在任歴により、公職追放の可能性が生じたため、後任に安倍能成を指名して辞職しました。

1946年には東京通信工業（後のソニー）の初代社長に就任し、企業活動でもその手腕を発揮します。

家族と個人的背景

前田多門は、学業や職業だけでなく家庭にも恵まれていました。長男は東京大学教養学部の名誉教授でフランス文学者の前田陽一、長女は精神科医の神谷美恵子、次女勢喜子はソニーの第2代社長の妻となりました。多門の家族関係からも彼の影響力が窺えます。

著作活動

多門は文筆活動も行い、多くの著書を残しました。特に国際労働や地域自治に関する著作があり、彼の思想や活動内容を知る上で重要な資料となっています。1927年から1937年にかけて発表された彼の作品の中には、『失業防止行政ニ関スル復命書』や『地方自治の話』が含まれています。

晩年と遺産

多門の晩年には、新渡戸に傾倒し、クエーカーに入信しました。彼の墓所は多磨霊園にあり、彼の功績を偲ぶ場所として多くの人に訪れられています。彼の生涯は、政治家、実業家、そして文筆家としての多面的な活躍を通じて、日本の近現代史に深く刻まれています。

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