前田普羅

前田普羅：自然を詠んだ俳句の世界

前田普羅（まえだ ふら、1884年4月18日 - 1954年8月8日）は、明治から昭和にかけて活躍した俳人です。本名を忠吉といい、清浄観子という別号も持っていました。高浜虚子に師事し、俳誌「辛夷」を主宰しました。

生涯

東京で生まれた前田普羅ですが、生い立ちには不明な点が多く、1886年生まれという説や、横浜生まれという文献も存在します。両親が台湾に渡り、母の死後、父の再婚などの事情から伯父の家で育ちました。早稲田大学英文科を中退後、横浜裁判所、時事新報社を経て、報知新聞社横浜支局の記者となります。1910年に結婚しました。

俳句との出会いは1912年、裁判所時代の知人であった杉本禾人の勧めがきっかけでした。「ホトトギス」に投句を始め、1914年には主宰の高浜虚子から原石鼎とともに新鋭として称揚されます。その後、石鼎、飯田蛇笏、村上鬼城らと共に、大正初期の「ホトトギス」を代表する作家として評価されるようになりました。1922年には「加比丹」を創刊しますが、7号で廃刊となります。

1923年、関東大震災で家財を全て失うという不幸に見舞われます。翌年、富山県に転居し、報知新聞社富山支局の支局長に就任。この富山での生活が、彼の作風に大きな影響を与えることになります。立山連峰をはじめとする雄大な自然に感銘を受け、立山や黒部などの山岳地帯を頻繁に訪れ、能登、佐渡、飛騨などへも足を運び句を詠みました。1926年には、池内たけしの後を継いで「辛夷」の選者となり、1929年には同誌の主宰となります。同年、富山に永住することを決意し、報知新聞を退社、俳句に専念する生活に入ります。

晩年は戦争の影響を受け、奈良、京都、千葉、川崎など各地を転々としました。1950年に東京に戻りますが、この間に再婚と離婚を経験しています。1952年、持病の腎臓病が悪化し、高血圧症を併発。1954年8月8日、脳溢血のため東京都大田区の自宅で亡くなりました。戒名は普羅窓峯越日堂居士です。

作風と評価

前田普羅は、雄大な自然を詠むことを得意とし、特に山岳俳句の第一人者として知られています。「人殺ろす我かも知らず飛ぶ螢」「雪解川名山けづる響きかな」などの句が代表作として挙げられます。元々は都会人であり、若い頃は江戸文芸に興味を持っていましたが、関東大震災で家財を失い富山に移住してからは、その陰鬱な風景や雄大な自然から大きな影響を受け、作風だけでなく人生観にも変化が現れました。

句集『春寒浅間山』は、日本の美しい野山を詠んだ普羅の代表的な作品であり、その山岳俳句は飯田蛇笏などからも高く評価されています。

山本健吉は、前田普羅を句柄の高さにおいて飯田蛇笏と並ぶ作家と評価し、「普羅の句には蛇笏の句のように醇厚さはなく、取材も狭く、句柄も痩せているが、その勁く鋭い響きは独特のものであり、その情熱の高さにおいて相拮抗している」と評しています。

主要な著書

『能登青し』
『春寒浅間山』靖文社、1946年
『飛騨紬』靖文社、1947年
『普羅のことばと俳句』中島杏子編、藤田寛、1962年
『定本普羅句集』辛夷社、1972年
『雪山 前田普羅句集』中西舗土編、ふらんす堂文庫、1992年
『渓谷を出づる人の言葉』能登印刷出版部、1994年
『前田普羅/原石鼎』新学社近代浪漫派文庫、2007年

前田普羅の俳句は、都会から地方へ、そして自然へと回帰した彼の人生そのものを反映していると言えるでしょう。彼の作品は、今もなお多くの人々に愛され、読み継がれています。

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