前田耕地遺跡

前田耕地遺跡：縄文時代の石器製作拠点

前田耕地遺跡は、東京都あきる野市野辺に位置する、縄文時代草創期から古代にかけての複合遺跡です。この遺跡は、秋川と平井川に挟まれた河岸段丘上に形成され、かつて集落が営まれていました。1976年から1984年にかけて発掘調査が行われ、現在は一部が「前田公園」として埋没保存されています。

特筆すべきは、出土した石槍などの縄文時代石器2616点が国の重要文化財に指定されていることです。また、遺跡の一部は東京都指定史跡に指定されています。

縄文草創期の遺構

縄文草創期の遺構面は、神子柴文化末期、あるいはそれに続く時期のものと推定されており、掃除山遺跡よりも古い可能性があります。調査では、多量の石槍と剥片を伴う2軒の建物跡が検出されました。

1軒は掘りこみがない平地建物跡で、外周の一部に沿って川原石が並べられています。もう1軒は、深さ10センチメートルほどの掘りこみを持つ竪穴建物で、中央やや北寄りに炉が設けられていました。これらの建物とその周辺からは、2000点を超える石槍と大量の剥片が出土しており、この場所で石槍が集中的に製作されていたことが明らかになりました。

しかし、膨大な石器群の出土に反して、検出された建物跡はわずか2軒のみであり、他の遺構はほとんど見つかっていません。土器もごくわずかな小片が出土したのみで、石皿などの植物採取に関わる道具も検出されなかったことから、この場所が通年生活の場として利用されていたとは考えにくいです。

サケの捕獲と石器製作

竪穴建物跡の床面を覆う覆土中からは、大量の哺乳動物と魚類の骨片が検出されました。特に魚類の骨片を詳細に分析した結果、建物内に60から70個のサケの頭部が存在していたことが判明しました。

前田耕地遺跡が多摩川とその支流である秋川が合流する川辺に位置することを考慮すると、サケが遡上する秋を中心とする時期に、サケの捕獲と合わせて石槍を集中的に製作していたと推定できます。サケの保存方法を考えると、前田耕地遺跡は、一年の特定の時期に居住地として利用されたものの、通年的な定住集落を形成するまでには至らなかったと考えられます。

石槍を主体とする石器群を持つ遺跡

石槍を主体とする石器群を持つ遺跡は、他にも存在します。例えば、新潟県津南町の本の木遺跡や中林遺跡、群馬県伊勢崎市の石山遺跡、千葉県富里市の南大溜袋遺跡、神奈川県綾瀬市の寺尾遺跡などが挙げられます。

これらの遺跡には、槍先形石器が多い、他の石器が少ない、石鏃をほとんど伴わない、石器作りに石刃技法が見られない、土器がないか非常に少ないといった共通の特徴があります。また、石片や破損品などの出土が多く、石器製作址としての性格を示すものが多いです。

前田耕地遺跡は、縄文時代の石器製作技術や、当時の人々の生活様式を知る上で貴重な情報を提供してくれる遺跡と言えるでしょう。

参考文献

• - 『日本史講座　第1巻』歴史学研究会・日本史研究会編　東京大学出版会　2004年　ISBN 4-13-025101-5

関連項目

• - 縄文時代

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