掃除山遺跡

鹿児島市下福元町に眠る縄文草創期の痕跡：掃除山遺跡

鹿児島県鹿児島市下福元町後迫の掃除山に位置する掃除山遺跡は、縄文時代草創期の人々の生活を今に伝える貴重な遺跡です。この遺跡からは、当時の自然環境や人々の暮らしぶりを知る上で重要な遺構や遺物が数多く出土しており、その一部は鹿児島市指定有形文化財に指定されています。

温暖化と植生の変化：縄文時代草創期の環境

縄文時代草創期は、地球規模で温暖化が進行し、それに伴い植生が大きく変化した時代でした。針葉樹林が主体だった森林は、落葉広葉樹や照葉樹へと移り変わり、その変化は西日本から太平洋沿岸へと広がっていきました。鹿児島県は、この温暖化と植生の変化が顕著に現れた地域の一つであり、この時期の遺跡が数多く発見されています。掃除山遺跡もその一つであり、当時の人々の生活を知る上で重要な手がかりを与えてくれます。

薩摩火山灰の下から現れた遺構と遺物

掃除山遺跡は、約1万1000年前に降下した薩摩火山灰の下から発見されました。遺跡からは、2棟の竪穴建物跡をはじめ、煙道つき炉穴、舟形や円形の配石炉、土坑など、様々な遺構が見つかっています。これらの遺構は、当時の人々の生活空間や調理方法を知る上で貴重な情報を提供してくれます。

また、遺跡からは、磨石や石皿といった、ドングリやクルミなどの木の実を加工するための道具類も多数出土しました。これらの道具は、縄文時代の人々が森の資源をどのように利用していたかを示す重要な証拠です。特に、磨石や石皿は、時代とともにその量が増加し、縄文時代前期には、日本各地の村で最もよく見られる道具類の一つとなりました。これは、縄文人の主食が狩猟採集から木の実などの植物性食料へと移行していったことを示唆しています。

定住集落への移行期を示す遺跡

掃除山遺跡で見つかった遺構や遺物は、一見すると、縄文時代における本格的な定住集落の要件をほぼ満たしているように思えます。しかし、遺構が約300平方メートルという狭い範囲にまとまっていること、広場を伴っていないこと、土器や石皿、磨石などの遺物の量が少ないことなどから、この遺跡を生活の場としていた人々は、常に竪穴建物を使用していたわけではなかったと考えられています。つまり、長期に定住するような本格的な集落は形成されていなかったと推測されています。

遺跡の立地も特徴的で、やせ尾根の狭い平坦地から北風を避けられる南向きの急斜面にかけて分布しています。このことから、調査者の中には、掃除山遺跡の竪穴建物を秋に採集した木の実の貯蔵と越冬のための居住地と考える人もいます。この遺跡は、旧石器時代から縄文時代への移行期に位置づけられる重要な遺跡と言えるでしょう。

遺跡の発掘とその後

掃除山遺跡は、鹿児島県道219号玉取迫鹿児島港線の建設に伴い、1990年から1991年にかけて鹿児島市教育委員会によって発掘調査が行われました。発掘調査の結果、数多くの貴重な遺構や遺物が発見されましたが、調査完了後は、県道建設のために遺跡は削平されました。

掃除山遺跡は、縄文時代草創期の人々の生活を今に伝える貴重な資料です。この遺跡の研究を通じて、私たちは縄文時代の人々の知恵や技術、そして自然との関わりについて、より深く理解することができるでしょう。

もう一度検索