前野重雄

前野 重雄は、1953年2月11日に東京都荒川区で生まれた。旧姓は宇野。現在はスポーツグッズ販売店「流体力学」の経営者であり、オフィス流体力学に所属している。経営者としての活動の一方で、作家、ジャーナリスト、テレビタレントなど、多岐にわたるキャリアを持つ。

ジャーナリストとしての歩み

前野の取材者としてのキャリアは早く、中学3年生の頃から週刊ポスト、女性セブン、週刊少年ジャンプといった雑誌で記者活動を開始した。1968年からは、安保闘争や全共闘運動など、当時の社会情勢を揺るがした公安事件を中心に、写真とルポルタージュで報道した。その後、ハワイ州立大学言論学部への入学を機にハワイへ渡り、1969年9月からは現地の契約記者として、女性誌や芸能誌向けの取材に従事した。

1974年から2年間はユナイト映画と契約し、活動の拠点をハリウッドに移す。ここでは16ミリフィルムを用い、1970年代のロックシーンを記録するドキュメンタリー撮影を行った。数々のロックアーティストに密着・同行して収められた映像は、今日のミュージックビデオの原型とも言えるものであった。父の逝去に伴い日本へ帰国した後も、雑誌取材記者としてプロ野球界の舞台裏に深く関わるようになった。

作家活動と「川崎ドリーム」

プロ野球取材で培った経験は、文筆活動にも活かされた。1991年には「前野兆治」名義で執筆した初の長編小説『川崎ドリーム - 川崎球場に客が来た日』が、第1回週刊ジャンプ・小説ノンフィクション大賞で一席入選を受賞した。この賞は、定金信二氏の『ジハード』と一席を分け合ったもので、後の直木賞作家である村上由佳氏も「佳作」に入選していた。この作品で前野は、ロッテオリオンズの番記者としての視点から、パ・リーグ球団特有のベンチ裏事情を赤裸々に描き出した。特に10月19日の「川崎決戦」における、オリオンズ一塁側ベンチ裏の葛藤や、観客が殺到した日の球場関係者のドタバタぶり、2万5千人が詰めかけた旧球場の混乱を克明にルポルタージュした。この日の試合は、本来「消化試合」となるはずが、近鉄バファローズの優勝可能性が残されたことで思わぬ注目を集め、多くの報道陣が不在の中で行われた。一塁側の選手やコーチ、観客への長年の取材に基づき再現された、当夜を巡る人間模様が、審査員であった立松和平氏らに高く評価され、受賞の決め手となった。

しかし、同作は受賞後、現役関係者からの忌憚のない証言を配慮し、彼らの引退を待って証言を補充したいという前野氏の意向により、集英社からの単行本化が見送られた。結果として、同賞の記念単行本が刊行されなかった最初で最後の受賞作品となった。後に2010年、amazonでの自主出版という形で刊行され、完売後廃版となったが、『ドラゴンボールZ』の脚本家、小山高男氏が作品に感銘を受け、改訂版発行のために校正作業を申し出ている。その他の著書に『前野重雄の球界遺産』『客は幾万 来なくとも 川崎球場ロッテ一部始終』などがある。また、週刊ベースボール、夕刊フジなどで連載を持っていた経歴も持つ。

スポーツビジネスと鑑定士として

スポーツグッズ販売店「流体力学」の経営者としては、バイク用シューズに関する実用新案を1980年代に取得している。また、日本におけるスポーツメモラビリア市場の草分け的存在としても知られる。1994年にはシカゴの「JORDANボーイズ＆ガールズ財団」への教育基金協賛を通じて、マイケル・ジョーダンとの提携を開始。1995年秋には、産経新聞後援で日本初のスポーツメモラビリアオークションを主催し、マイケル・ジョーダン、イチロー、野茂英雄といったトップアスリートの記念品にプレミア価値があることを日本に紹介した。1996年には(株)ジャストシステム後援で、日本初のインターネットを利用した無人オークションを主宰するなど、黎明期のオンライン取引にも関わった。野茂英雄が近鉄からロサンゼルス・ドジャースへ移籍した際には、メジャー仕様のサインボールを日本のファンに届けたが、その商品説明に野茂が日米野球殿堂入りしたと記載していたことは、事実と異なっていた（野茂はアメリカの殿堂には入っていない）。清原和博については、現役中にスパイク素材の変更を根拠に引退を示唆するコメントを週刊誌上で行ったが、清原はその後も現役を続行した。タイガー・ウッズに関しては、アマチュアからプロ転向する時期に、その代理人である父親にプロ初の有料サインビジネスを提案し、日本の「流体力学」向けに提供されたサインボールが、ウッズにとって事実上のプロとして最初のサインボールになったというエピソードがある。これらの有名アスリートのサインや実使用品は、アメリカではアッパーデック社の証明書付きが高い人気を誇るが、日本では前野氏による証明書付きのアイテムも高値で取引されることがある。

テレビ出演も多く、特に『開運!なんでも鑑定団』（テレビ東京）には1995年から2007年までの13年間、「スポーツ/アメリカ文化もの」鑑定士としてレギュラー出演し、その名を広く知らしめた。その他、『マリオンアベニュー』『プライスバラエティ ナンボDEなんぼ』『森田一義アワー 笑っていいとも!』『うたばん』など、数多くの番組に出演した。

また、番組の構成にも携わっており、『愛川欽也の探検レストラン』『出没!アド街ック天国』では、東京下町グルメや荒川区町屋に関する回を担当し、浅草「ヨシカミ」のハヤシライスをメディアに初めて紹介したことでも知られる。

その他の専門性

異色の経歴として、弾道学の専門家でもあり、1995年には警視庁捜査第一課特殊犯係（SIT）の最新防弾装備の開発・設計・製造に参画している。日本アイ・ビー・エムのAPTIVAイメージキャラクターや、Yahoo!オークションのプレミアジャンルコンサルタントも務めた。

このように、前野重雄はスポーツビジネス、ジャーナリズム、文学、テレビ、そして専門的な技術分野まで、多岐にわたる領域で独自の足跡を残してきた人物である。

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