前震

前震とは

前震とは、一連の地震活動の中で、最も大きな揺れをもたらす本震に先行して発生する地震のことです。しかし、地震発生中に前震かどうかを判断することは非常に困難で、通常は地震活動が終息した後の解析によって初めて前震であったと判明します。

一般的に、地震は本震の後に余震が続く「本震-余震型」のパターンを示すことが多いですが、実際には地震の規模は様々で、本震と見分けがつかないような前震も存在します。また、前震は全ての大地震に先行して発生するわけではなく、地域によって発生状況は異なります。

例えば、東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震の前には、M7.3の地震が発生しましたが、これは後に前震であったとされました。また、平成28年熊本地震では、M6.5の地震が本震と発表されましたが、これも後に前震であったと修正されました。

現在の気象庁は、前震・本震という区別を設けず、全ての揺れを「地震」と表現することで、混乱を避けるようにしています。

前震と地震予知

前震を捉えることで本震を予知できるのではないかという考え方は古くから存在しますが、現在まで前震を利用した地震予知の成功例はありません。その理由として、前震と判断するためには数日から10日程度の地震活動を解析する必要があることが挙げられます。

また、ある地震活動が本震かどうかを判断するには、余震の減衰と分布を立体的に捉える必要があり、余震数の減衰については「改良大森公式」と呼ばれる統計的なモデルが利用されます。しかし、地震活動の減衰率が低い場合、前震ではなく群発地震である可能性も考慮しなければなりません。

このように、現在の科学技術では群発地震と前震を区別することが難しく、前震の存在は本震後に判断されるのが現状です。

前駆活動

前震とは別に、大地震の前に発生する地震活動として「前駆活動」と呼ばれるものがあります。スロースリップや前駆微動などがこれに該当し、前震よりも本震までのタイムラグが長く、発見しやすいとされています。しかし、前駆活動を利用した地震予知も、現在のところ成功していません。

主な前震の事例

過去の地震では、以下のような前震の事例が報告されています。

1891年 濃尾地震 (Mj8.0): 本震の3日前にM6.0の地震が発生。
1960年 チリ地震 (Mw9.5): 本震の約33時間前にM8.2、約9時間前にM7.1とM6.8、約15分前にM7.9の前震が発生。
1995年 兵庫県南部地震 (Mj7.3): 本震の前日に最大M3.3の前震が4回観測。
2003年 宮城県北部地震 (Mj6.4): 本震の7時間前に震度6弱の地震が発生。
2011年 東北地方太平洋沖地震 (Mw9.0): 本震の2日前からM7.3の地震を皮切りに多数の地震が発生。
2013年 ソロモン諸島沖地震 (Mw8.0): 本震の約2週間前からM6.0以上の地震が7回、M5.0-5.9の地震が16回発生。
2016年 熊本地震 (Mj7.3): 本震の28時間前にM6.5(震度7)の地震を中心に多数の地震が発生。
2022年 福島県沖地震 (Mw7.3): 本震の2分前にM6.1の地震が発生。
* 2024年 能登半島地震 (Mj7.6): 本震の約4分前にM5.7の地震、本震の約10秒前にM5.9とM不明の地震が発生。

これらの事例から、前震は本震の直前だけでなく、数時間から数日前、場合によっては数週間前から発生することがわかります。

まとめ

前震は、本震の発生を予測する上で重要な手がかりとなる可能性がありますが、現時点では、前震を捉えて地震を予知することは困難です。しかし、前震の研究は、地震発生のメカニズムを解明し、将来的な地震予知技術の向上に貢献すると期待されています。

より正確な地震の予測のためには、前震だけでなく、前駆活動や地殻変動など、様々な要素を総合的に分析することが重要です。

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