劉媼

劉媼（りゅう おん）

劉媼（りゅう おん、生没年不詳）は、前漢の初代皇帝・劉邦（高祖）の生母であり、没後に昭霊皇后の諡号を贈られました。彼女は劉邦の出自にまつわる伝説的な逸話と共に語られることが多いですが、その生涯は謎に包まれています。

概要

劉媼は、漢王朝の創始者である劉邦の生母という重要な立場でありながら、その姓名ははっきりとしていません。『史記索隠』や『史記正義』に引用された皇甫謐の説では、姓は王氏、名は含始とされていますが、顔師古はこの説に疑問を呈しています。

夫は劉太公で、劉邦の他に劉伯（名不詳）、劉喜という2人の息子がいました。「劉媼」という呼び名は、夫の劉太公に対する「太公」と同様に、年長者への親しみを込めたものであり、「劉家の母」といった意味合いを持つと考えられています。そのため、「劉媼」が彼女の本名であったかどうかは定かではありません。

中国の伝統的な風習では、同姓間の婚姻は避けられる傾向があるため、劉邦の母は劉姓以外の姓を持つ家から嫁いできたと考えるのが自然です。しかし、彼女の本来の姓は現在も不明です。

出生にまつわる伝説

『史記』「高祖本紀」や『漢書』「高帝紀」には、劉媼が昼寝をしている際に龍が体に乗り移り、その結果として劉邦が生まれたという記述があります。しかし、この伝説は、他の英雄たちの出生譚と比較して描写が生々しいことから、研究者の間では様々な解釈が生まれています。

美川修一は、龍ではなく落ち武者や盗賊が劉媼に性的暴行を加えた結果、劉邦が生まれたのではないかという説を提唱しています。真相は不明ですが、劉邦の出自には謎が多く、様々な憶測を呼んでいます。

その後

史書によれば、劉媼は比較的早くに亡くなったとされており、夫の劉太公は後妻（姓名不詳）との間に劉交をもうけています。紀元前202年、劉邦が皇帝の位に就くと、劉媼は「昭霊夫人」の称号を追贈されました。さらに、劉邦の死後、呂雉によって「昭霊皇后」へと追尊されています。

劉媼は、漢王朝の礎を築いた劉邦の母として、歴史に名を残しています。彼女の生涯は謎に包まれていますが、その存在は、劉邦の出自や王朝の正当性を語る上で重要な役割を果たしています。

彼女に関する研究は少ないものの、伝説的な逸話や史書に残されたわずかな記述から、その人物像を想像することができます。劉媼は、歴史の表舞台には登場しないながらも、漢王朝の成立に深く関わった重要な人物と言えるでしょう。

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