加丁関係

カナダとデンマークの関係

カナダとデンマークは、北大西洋を挟んで対峙する国家として、長年にわたり強固な二国間関係を維持してきました。両国は地理的な近さから、北極圏における協力や課題共有の重要性を認識しています。外交面では、カナダはデンマークの首都コペンハーゲンに大使館を、デンマークはカナダの首都オタワに大使館を設置しているほか、カナダ国内各地に複数の領事館（トロントの総領事館を含む）を置いて、広範な外交ネットワークを構築しています。

両国は共通の安全保障上の利益を共有しており、北大西洋条約機構（NATO）の重要な加盟国として連携しています。また、北極圏の持続可能な開発や環境保護に取り組む北極評議会においても正式メンバーとして協力しています。これらの国際的な枠組みを通じ、両国は様々な地球規模の課題に対して協調的なアプローチを取っています。

歴史的経緯

カナダとデンマークの関係史は古く、1928年にはカナダの鉄道会社職員とデンマークの人物との会談が関係強化の一助となったとされています。二国間における公式な結びつきは、1949年に初めての条約となるビザ要件に関する協定が結ばれたことに始まります。その後も関係は深化し、1956年には税に関する協定が署名されました。1969年には防衛科学分野での協力に合意し、1983年には海洋環境を含む広範な協定がデンマークのコペンハーゲンで締結されるなど、協力分野は多岐にわたります。また、2010年にはデンマークが教育プログラムの国際化を目的とした「Denmark–USA/Canada Program」を開始するなど、文化・教育交流も活発に行われています。

ハンス島領土問題（ウイスキー戦争）

カナダとデンマークの関係において、近年特に国際的な注目を集めたのが、ハンス島（タアルットゥップ・サーリア）をめぐる領土紛争です。ネアズ海峡の中心に位置するこの小さな無人島（面積約1.3平方キロメートル）は、デンマークの自治領であるグリーンランドとカナダのヌナブト準州の間にあります。1973年に両国間でこの地域の国境画定条約が結ばれた際、ハンス島の帰属については明確な合意に至らず、未定義のまま残されていました。

この状況が時折表面化したのが、「ウイスキー戦争」とも呼ばれるユニークな応酬です。1984年、デンマークのグリーンランド担当大臣が島にデンマーク国旗を掲揚し、ブランデーのボトルを置いていったことから始まりました。これに対し、カナダ側も定期的に島を訪れ、カナダ国旗を立ててウイスキーのボトルを置いて帰るという行為が繰り返されました。2005年には、カナダの国防大臣が島を訪問したことでデンマーク側が公式に抗議し、カナダ海軍艦艇が派遣される事態に発展するなど、緊張が高まった時期もありました。

しかし、両国はこの問題を外交的に解決する道を模索し続けました。2009年には解決に向けた公式な手続きが開始され、その後も交渉が重ねられました。長年の議論を経て、2022年6月14日、両国政府はハンス島を分割し、それぞれカナダ領とデンマーク領とする国境線を定めることで合意し、正式に発表しました。これにより、半世紀近くにわたるこの領土問題は平和的に解決されました。これは、近隣国家間の領土紛争が対立ではなく対話によって解決され得る好例として国際社会に示されました。

要人の往来と移民

カナダとデンマークの間では、王室メンバーを含む高官レベルの往来も頻繁に行われてきました。デンマーク女王マルグレーテ2世は皇太子妃時代に夫であるヘンリック王配と共に1967年にカナダを訪問し、女王即位後も1991年に再びカナダを公式訪問しています。現在の国王フレデリック10世も皇太子時代にメアリー王妃と共に2014年にカナダ（オタワとトロント）を訪れています。また、ヨアキム王子がマリー妃と結婚した際には、新婚旅行先にカナダを選ぶなど、デンマーク王室とカナダの間には深いつながりがあります。

人の移動という点では、カナダには歴史的にデンマークからの移民も多く受け入れてきました。特にニューブランズウィック州のヴィクトリア郡にある「ニューデンマーク」という地域は、1872年にデンマーク人入植者によって開かれ、かつてはカナダで最大かつ最も歴史のあるデンマーク系コミュニティを形成していました。国外への移住などの影響により、近年そのデンマーク的な影響はやや薄れているものの、カナダ社会における多様性を形作る一要素となっています。

総じて、カナダとデンマークは共通の価値観と国際的な責任を共有する友好国として、歴史的な課題を克服しつつ、幅広い分野で協力関係を深化させています。相互の大使館・領事館ネットワークは、両国間の政治、経済、文化交流を支える基盤となっています。

もう一度検索