加茂正雄

加茂 正雄（かも まさお）

日本の工学者、東京帝国大学名誉教授。明治9年（1876年）8月15日、愛媛県松山市にて旧松山藩士の家に生まれた。幼少期から器物や玩具の製作に非凡な才能を示し、その後の工学の道へと繋がる片鱗を見せていた。伊予尋常中学校、第三高等中学校、第二高等学校を経て、明治28年（1895年）に東京帝国大学機械工学科へ進学。在学中は特待生に選ばれる優秀さを見せ、学業と並行して逓信省官船局での船舶検査や造船工事の補助業務にも従事し、実践的な経験を積んだ。卒業後、大学院で船用機関学の研究に励み、東京帝国大学工科大学の助教授に就任した。

助教授時代の明治32年秋には、学術調査のため台湾へ約3ヶ月出張し、機械工学の視察と共に原住民地区の現状を視察するという、当時の日本では珍しい経験を持つ。帰国後も大学での教育・研究に加え、航路標識の視察や商船学校視察船の設計、横浜・神戸における標明球用ウインチの設計調査など、多岐にわたる実務に携わった。

明治39年（1906年）からは約7年間にわたり、イギリス、フランス、ドイツへ留学した。主にイギリスのグラスゴー大学で舶用機関学を深く研究。留学中には、自身が基本設計を手がけた青函連絡船「比羅夫丸」と「田村丸」の現地建造工事の監督も務めるという、設計から建造まで一貫して関わる貴重な経験を得た。また、明治41年（1908年）には帝国鉄道庁技師も兼任している。

大正元年（1912年）に帰国後、東京帝国大学の教授に昇任。日本の工学教育・研究の第一線で活躍した。大正13年（1924年）にロンドンで開催された第1回世界動力会議には日本首席代表として出席し、以後計4回にわたり同会議に参加。国際的な舞台で日本の技術や研究成果を紹介し、交流を深めた。昭和4年（1929年）に東京で開催された万国工業会議では組織委員長として大会運営を牽引し、日本の工学界の国際的な地位向上に大きく貢献した。このほかにも、日本機械学会会長、経営士会会長、冷凍協会会長など、様々な学会や団体の要職を歴任し、その活動範囲は広範に及んだ。

戦後も教育者としての情熱を失わず、法政工業専門学校長を経て、法政大学工学部の教授となり、初代工学部長を務めた。日本の将来を担う多くの技術者育成に力を注いだ。

主な業績としては、明治37年（1904年）の東京高等商船学校練習船「大成丸」、明治41年（1908年）の青函連絡船「比羅夫丸」「田村丸」の機関部設計などが挙げられる。これらの船舶は当時の日本の技術力を示すものであり、加茂正雄の舶用機関設計における優れた能力を示す事例である。

著書に、欧米視察の成果をまとめた『欧米工業界管見』（大正14年、1925年）がある。

昭和35年（1960年）8月29日に逝去。享年84。墓所は品川区の品川寺にある。加茂正雄は、日本の近代工学、特に機械工学および舶用機関学の発展に多大な貢献をしただけでなく、国際的な活動を通じて日本の技術力を世界に知らしめた、近代日本の工学界を代表する一人である。

家族としては、元松山藩士で後に愛媛県職員となった父・加茂寬正、陸軍少将となった兄・植岡寛雄らがいる。妻・禄は工学博士・渡辺渡の二女にあたり、建築家・渡辺仁を義兄に持つなど、当時の学術・文化界との繋がりも窺える。

参考文献

20世紀日本人名事典
『愛媛県人名大事典』（愛媛新聞社）

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