加藤九祚

加藤九祚：生涯と業績

加藤九祚(1922-2016)は、日本を代表する人類学者の一人です。朝鮮生まれ、山口県育ちという経歴を持ち、アジア文化史、特に中央アジアの考古学研究において顕著な功績を残しました。その生涯は、激動の時代を生き抜き、学問への飽くなき探求心と行動力で彩られた、まさにドラマチックなものでした。

戦中・戦後の激動と学問への道

1922年、朝鮮で生まれ、日本の山口県で育った加藤は、鉄工所勤務や小学校代用教員を経て、1942年に上智大学予科に入学します。しかし、1944年には応召され満州へ出征。終戦後にはソ連軍に捕虜となり、シベリア抑留を経験することとなります。この過酷な経験は、後の彼の研究生活に大きな影響を与えたことは想像に難くありません。

1950年に日本へ帰国後、上智大学文学部独文科に復学し卒業。恩師の紹介で平凡社に入社します。シベリア抑留で身につけたロシア語とドイツ語は、ユーラシア大陸の考古学やシベリア諸民族に関する研究の翻訳・紹介に活かされ、1963年には初の著書『シベリアの歴史』を刊行しました。

シルクロードへの憧憬と国立民族学博物館時代

1971年に平凡社を退社した後、念願だったシルクロード旅行中に梅棹忠夫と出会い、1975年には梅棹の招きで国立民族学博物館の教授に就任。1983年には大阪大学より「北東アジア民族学史の研究：江戸時代日本人の観察記録を中心として」で学位を取得します。

国立民族学博物館時代には、研究活動のみならず、自ら中央アジア地域への調査も精力的に行いました。特に、ウズベキスタン科学アカデミー考古学研究所との共同研究では、テルメズ郊外カラテパでのクシャン時代の仏教遺跡発掘に尽力しました。

創価大学時代と晩年

1986年に国立民族学博物館を退官後は、相愛大学、そして創価大学へと教授職を移し、「創価大学シルクロード学術調査団」を組織、シルクロード研究センター長にも就任。1998年に創価大学を退職後も、中央アジア地域の発掘調査に携わり続けました。

晩年は、毎年1冊のペースで単独編集誌『アイハヌム 加藤九祚一人雑誌』を刊行し続け、その精力的な研究活動は、没する直前まで続きました。2016年、ウズベキスタンでの発掘調査中に倒れ、現地で逝去。享年94歳でした。

多彩な業績と栄誉

加藤九祚の業績は、単なる学術研究にとどまりません。彼の著作は、一般読者にも分かりやすく書かれており、中央アジアの歴史や文化への理解を深める上で多大なる貢献をしました。また、ロシア語やドイツ語の言語能力を生かした多くの優れた訳書も残しています。

その功績は高く評価され、大佛次郎賞、南方熊楠賞など数々の賞を受賞。さらに、ロシア科学アカデミー名誉歴史学博士の称号も授与されています。ウズベキスタン政府からは「ドストリク勲章」（友好勲章）とテルメズ市名誉市民章も贈られました。

彼の妻、加藤定子氏も服飾史研究者として知られ、パジリク文化の衣服復元研究などで活躍しました。

加藤九祚の生涯と研究は、まさに「ユーラシア」という壮大な舞台で展開されました。彼の残した著作や研究は、今後も多くの研究者や一般の人々にインスピレーションを与え続け、アジア文化史研究の発展に貢献し続けるでしょう。彼の没後も、多くの追悼出版物が刊行されていることからも、その業績の大きさが伺えます。

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