労働シオニズム

労働シオニズム：ユダヤ人国家建設の社会主義的アプローチ

労働シオニズムは、シオニズム運動の中でも特に左派に位置する政治思想であり、20世紀におけるユダヤ人国家建設において中心的な役割を果たしました。東欧のユダヤ人労働運動から派生し、世界各地に支部を持つ大きな運動に発展しました。

労働シオニズムの思想：生産的社会と国家建設

労働シオニズムは、単に国際社会への働きかけだけでユダヤ人国家が実現するとは考えていませんでした。むしろ、ユダヤ人労働者階級がパレスチナへ移住し、農業共同体キブツやモシャヴ、都市部での労働者運動を通じて、進歩的な社会主義国家を建設することが必要不可欠だと主張しました。

この思想の源流は、モーゼス・ヘスの1862年の著作『ローマとエルサレム 最後の民族問題』に見ることができます。ヘスは、ユダヤ人がパレスチナに入植し、農業を基盤とした生産的な社会を築き上げることで、真の国家を実現できると提唱しました。この考えは、ベル・ボロチョフによる「ユダヤ社会の逆ピラミッド状態」の修正、A・D・ゴードンによるユダヤ人農民による社会建設論など、後続の思想家たちによって発展・継承されました。

1909年、ガリラヤ湖南岸に初のキブツであるデガニアが建設され、ヨーロッパからのユダヤ人移民が農業やその他の技能を習得しながら共同社会の建設を進めました。このキブツ運動は、労働シオニズムの理念を体現する象徴的な存在となりました。

ジョセフ・トランペルダーは初期の労働シオニズム運動を代表する人物です。彼は、単なる労働者だけでなく、イスラエルの建設に必要なあらゆる人材が必要であると主張しました。医師、技術者、兵士、芸術家など、多様な人材が国家建設に不可欠であるという考えです。彼の「気にするな、我々の国のために死ぬのは良い事だ」という言葉は、初期シオニズム運動における自己犠牲の精神を表すものとなりました。

アルバート・アインシュタインも労働シオニズムを支持しましたが、ユダヤ人国家の建設については、ユダヤ人とアラブ人の共存共栄を重視する立場をとったとする見解もあります。一方、アインシュタインがイスラエル建国を支持していたとする説もあります。

労働シオニズムと政党：マパイ党とイスラエル労働党

第二次アリーヤー（1904年～1914年）期には、ハポエル・ハツァイル党（青年労働者党）やポアル・シオン党などの労働シオニズム政党が設立されました。ポアル・シオン党からは、ダヴィド・ベン＝グリオンらによってアフダート・ハアヴォダが、後にマパイ党へと発展しました。マパイ党は労働シオニズムの主流派を包含する大きな勢力となり、イスラエル建国後もイスラエル労働党として大きな影響力を持ち続けました。また、ポアル・シオン党の左派はマパム党を結成しました。

労働シオニズムの衰退と変容：社会主義からの離脱とイスラエル社会の変化

1920年代以降、労働シオニズム運動は社会主義的イデオロギーを背景に持ちながらも、国家建設という現実的な目標に重点を置くようになります。しかし、その過程で社会主義の原理を放棄したとする見解も存在します。

第三次中東戦争後には、「グレーター・イスラエル」を支持する労働シオニストも現れ、運動内部に意見の対立が生じました。一方、和平プロセスを重視する労働シオニストは、占領地の放棄を求める立場をとりました。1993年のオスロ合意は、この和平重視の立場を反映する出来事となりました。

現在、労働シオニズムと他のシオニズム潮流との違いは、経済政策というよりも、イスラエルとパレスチナの和平プロセスに対する姿勢にあります。労働シオニズムはイスラエル社会において、労働党（マパイ党の後継）を通して大きな影響力を持っていましたが、近年は資本主義や新自由主義を容認する傾向も強くなっています。皮肉にも、労働者階級がリクードに支持を傾ける中、労働党は支配階級や政治的エリートを代表する政党としての地位を保っています。

現在の労働シオニズム

現在も世界労働シオニズム運動はエルサレムに本部を置き、世界各国のパートナー団体と連携しています。イスラエル国内では、イスラエル平和キャンプとほぼ同義とされ、アラブ人国家の建設も支持する活動家も少なくありません。しかし、社会主義経済への固執は薄れています。

労働シオニズムは、ユダヤ人国家建設という歴史的過程において大きな役割を果たした政治思想ですが、時代とともにその思想や影響力は変容を遂げています。現在もイスラエル社会に影響を与え続けているものの、その役割や存在意義は、常に変化と議論の対象となっています。

もう一度検索