動物園にて

「動物園にて」（At the Zoo）

「動物園にて」（原題：At the Zoo）は、アメリカのフォークロックデュオ、サイモン&ガーファンクルが1967年に発表した印象的な楽曲です。かつては「夢の動物園」という邦題でも知られていました。

楽曲の背景と発表

この楽曲は、マイク・ニコルズ監督による1967年公開の傑作映画『卒業』のために、メンバーの一人であるポール・サイモンが特別に書き下ろしたものです。しかし、最終的に映画の公式サウンドトラックには採用されませんでした。映画本編には、主人公であるベンジャミン（ダスティン・ホフマン）とエレイン（キャサリン・ロス）がサンフランシスコ動物園を歩く有名なシーンが存在しており、本来はこの楽曲が使用される可能性があったことがうかがえますが、実際に映画で使用された音楽は、サイモン&ガーファンクルの既存の楽曲を中心としたものでした。

映画への採用は見送られたものの、「動物園にて」は1967年 2月27日にシングルとしてリリースされる運びとなりました。シングルのB面には、同じく彼らの初期の代表曲である「59番街橋の歌 (フィーリン・グルーヴィー)」が収められています。シングル発売後、ビルボードの主要な音楽チャートであるHot 100では、1967年4月下旬に2週連続で最高位16位を記録するなど、商業的な成功も収めました。

その後、シングル発表からおよそ1年後の1968年 4月3日にリリースされた彼らの名盤アルバム『ブックエンド』（Bookends）に収録され、アルバムトラックとしても多くのリスナーに親しまれることになります。このアルバムは彼らの芸術性がより深まった時期の作品であり、本作もその一翼を担っています。

歌詞と楽曲の特徴

楽曲は、「Someone told me / It's all happening at the zoo / I do believe it / I do believe it's true」（ある人が言っていた／動物園ではあるゆることが起こるのだと／僕はそれを信じるよ／本当のことだと信じるよ）という、聴く者を惹きつける歌い出しで始まります。歌詞の舞台となっているのは、ニューヨーク市のセントラル・パーク動物園です。歌の中では、サイやゾウ、ヒョウ、猿、キリン、ハムスターといった様々な動物たちが次々と登場し、それぞれの生態や行動がポール・サイモン独特の視点とユーモアをもって描かれています。

単に動物を描写するだけでなく、それぞれの動物たちの姿を通じて、人間の社会や日常における様々な側面――例えば、威厳や野性、騒がしさ、優雅さ、あるいは些細なことに興奮したり、特定の嗜好を持ったりするといった様子――をどこか示唆しているかのように歌われています。軽快で覚えやすいメロディーに乗せられた歌詞は、動物園という身近な場所を舞台にしながらも、人間存在に対する洞察を含んだ、サイモン&ガーファンクルらしい知的な遊び心にあふれた世界観を作り出しています。

異版と関連作品

本作には、公式にリリースされたバージョンとは別に、興味深いデモ・バージョンが存在します。このデモ音源は、発表されたバージョンと楽器の演奏はほぼ同じであるにもかかわらず、歌詞の内容が全く異なっています。このデモは公式なリリースには至らず、一部の海賊版音源などで聴くことができるだけですが、楽曲が完成に至るまでの創作過程や、ポール・サイモンの初期の構想を知る上で貴重な資料となっています。

また、この楽曲の世界観は、後に絵本という形で新たな命を吹き込まれました。1991年 8月1日、ポール・サイモン自身が文を手がけ、ヴァレリー・ミショーが絵を担当した絵本『ポール・サイモンのどうぶつえん』（原題も同じくAt the Zoo）が出版されました。この絵本は子供たちを対象としているため、オリジナルの楽曲に含まれる一部の表現が、より子供にとって分かりやすく、穏当なものに修正されています。例えば、オリジナルの歌詞にある「飼育係はラム酒が大好きだ」といった大人の嗜好に関する描写や、「ハムスターたちは事あるごとに興奮する」といった性的なニュアンスを含む可能性のある表現が、絵本版ではより一般的な、あるいは無難な表現へと変更されています。この絵本の日本語版は、日本の漫画家・作家である柴門ふみ氏の翻訳により、小学館から刊行されており、日本でも多くの子供たちに親しまれています。

「動物園にて」は、サイモン&ガーファンクルのキャリアにおいては大ヒット曲というよりは、アルバム『ブックエンド』を構成する重要な楽曲の一つとして、また彼らの多様な音楽性とポール・サイモンの作詞家としてのユニークな才能を示す作品として位置づけられています。その親しみやすいメロディーと、動物たちの描写に込められた人間社会への洞察は、時代を超えて多くのリスナーに愛され続けています。

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