動物磁気説

動物磁気説（メスメリズム）とは

動物磁気説、またはメスメリズムは、18世紀のドイツ人医師フランツ・アントン・メスメルによって提唱された学説です。これは、人間や動物、植物を含む全ての生物が持つとされる、目に見えない自然の力（Lebensmagnetismus）に関するものです。

メスメルは、空間には磁性を帯びた未知の流体が存在し、それが生体内を貫流していると考え、これを「動物磁気」と名付けました。当時、原因不明であったヒステリーなどの病気は、この動物磁気の不均衡によって生じると考え、施術者が患者に磁気を送ることで治療するという方法を実践しました。

メスメルの学説と治療

メスメルの治療は当時のヨーロッパで高い名声を得て、専門の学会が作られたり、磁気師と呼ばれる施術者が多く生まれたりしました。しかし、メスメル自身は動物磁気の科学的な立証に失敗し、彼の理論は否定されることになります。しかし、治療法自体には何らかの効果があると見なされ、研究が続けられた結果、催眠術や催眠療法へと発展していきました。

動物磁気治療の具体的な方法

メスメルは初期の頃、患者と向かい合って座り、膝をつけ、手で親指を押さえ、目をじっと見つめるといった方法で治療を行いました。肩や腕に沿って手を動かし、患者の横隔膜の下あたりに指を押し当てることもありました。患者は治療中に特異な感覚を覚えたり、痙攣や失神といった症状（「crisis」と称された）を起こすことがあり、これを治療の成功とみなしていました。

1780年頃には、メスメルは「baquet」という集団治療法を確立しました。これは、複数の患者が同時に治療を受けることができるように工夫されたものでした。

しかし、1784年にフランス王立委員会がメスメルの磁気流体説を否定し、またプロイセンでの治療実演の失敗などもあり、メスメルは次第に姿を消していきました。

語源と定義

マグネタイザー（Magnetizer）

マグネタイザーとは、動物磁気を研究し実践する人を指す言葉です。メスメリスト（催眠術師）やマグネティスト（磁気学者）とは区別され、動物磁気説の支持者に対する批判的な意味合いを含む場合もありました。フランス語の"magnétiseur"（メスメリズムを用いる人）に由来し、磁気流体を操作して他者に影響を与える力を持つと信じられていた人物を指します。

メスメリズム（Mesmerism）

イギリスのマグネタイザーの間では、自分たちの臨床技術をメスメリズムと呼ぶ傾向がありました。これは、動物磁性の理論と磁気流体に基づく理論とを区別するためでした。当時のマグネタイザーは、磁気流体を操作しようとし、患者に按手（手を置く）することで、激しい熱、震え、トランス、発作などの症状を引き起こすことを試みました。

フランス王立委員会の検証

1784年、ルイ16世の命を受けたフランス王立委員会がメスメルの磁気流体説を検証しましたが、磁気流体の存在を示す証拠は見つかりませんでした。委員会は、治療効果はあるものの、それは患者の思い込みや偽医術によるものだと結論づけました。

メスメリズムと催眠術

メスメルの弟子であったファリア神父は、暗示の力でメスメリズム現象が起こることを示しました。その後、ジェイムズ・ブレイドが「催眠術」という言葉を作り、メスメリズムは催眠術として学問的に確立されていきました。しかし、「メスメリズム」と「催眠術」は、定義や研究において大きな違いがあるとされています。

ロマン主義時代における懐疑論

動物磁気の研究が盛んになるにつれて、動物磁気を秘伝の技術として教える団体が現れました。しかし、秘密主義的な傾向が強まったことで、動物磁気に対する懐疑的な見方も広まりました。また、動物磁気による治療だけでなく、磁気を使って患者に恋愛感情を抱かせようとする医師の存在も問題視され、動物磁気が女性の性的搾取につながるのではないかという懸念も生じました。

現代における動物磁気

20世紀に入ってからも、動物磁気に関する研究は散発的に行われています。また、メスメリズムは精神的な癒しの場を作り出した側面もあり、精神的な利益を強調する動物磁気学者も存在しました。

一部の研究者は、イエスの奇跡の源は動物磁気であったと示唆しましたが、批判も多くありました。

現代では、メスメリズムは代替医療の一形態として実践されている国もありますが、医学的には認められていません。

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