勝願院

勝願院（しょうがんいん）

勝願院は、かつて奈良市高畑町付近に存在した寺院です。現在は新薬師寺にある景清地蔵が安置されていたことから、景清地蔵堂とも呼ばれていました。

所在地

勝願院があった場所は、勝願院町という町名で呼ばれていましたが、行き止まりの辻子であったため、景清辻子とも呼ばれていました。地誌によると、この景清辻子は隔夜寺のある客養寺町の南、喜虎辻子・中之辻子の東方に位置していました。近世の絵図では、不空院の東方に北から南へ延びる3つの行き止まりの辻子が描かれており、そのうち最も東の辻子に景清辻子の記載が見られます。この辻子の東側に、西面して勝願院があったと伝えられています。

天保年間の『和州奈良之図』以降の絵図では、景清辻子とは少し離れた、新薬師寺・鏡神社の東から東南付近に、『景清地蔵』という記載が別に描かれています。『平城坊目遺考』には、勝願院の堂が廃れたため、景清地蔵は新薬師寺の傍に移されたという記録があります。ただし、幕末から明治初期頃の状態を描いたとされる地図『春日神官住居大略地図』では、旧来と同じく景清辻子の東方に景清堂が描かれています。

歴史

往古には興福寺の別院であったとされています。近世には艸堂一宇と景清地蔵一躯が残されており、東北の傍には弁財天小社があり、社殿下の石窟には一円鏡が納め祀られていたといいます。享保3年(1718年)3月23日、勝願院は焼亡し、景清地蔵は煙の中から救い出されたものの損壊しました。享保6年(1721年)に堂宇が再建され、景清地蔵も修理され再度安置されたと伝えられています。

その後、堂宇が廃亡し、景清地蔵は新薬師寺の傍に移されたという記録があり、さらに明治2年(1869年)には新薬師寺の所蔵となりました。

景清伝説

平景清が西海に落ち延びた後、東大寺大仏殿供養の日に源頼朝を暗殺するために奈良を訪れ、景清辻子に住んでいた老母を訪ねて匿われ住んでいたという伝説が、いくつかの地誌に記録されています。老母は持仏の地蔵尊を勝願院に祀っていましたが、景清は自分の持つ弓の鉾をこの地蔵の錫杖の柄としたと伝えられています。これが今に伝わる景清地蔵だというのです。また、一説には、景清地蔵の細く瞳のない両眼は、景清の盲目の相を写したとも記されています。勝願院東北にあった弁財天小社に納められていた一円鏡も、この老母が納めたものだとも言われています。

しかし、実際には建久6年(1195年)3月13日の大仏供養で頼朝が京にいた際、景清は既に捕らえられて鎌倉にいたため、奈良にいたはずはありません。また、『景清地蔵』の項で説明されている通り、『景清地蔵』はその元となる『おたま地蔵』が、嘉禎2年(1236年)に亡くなった実尊の追善のために造られたことがわかっており、景清の時代とは時期が合いません。『奈良坊目拙解』などではこの伝説の虚実について、(1)大仏供養の日、大衆と警固の梶原景時との間で諍いが発生した事件があった、(2)同じく大仏供養の日、平氏落人の盛国という者が、頼朝暗殺を画策して露呈し捕らえられた、(3)景清の兄、上総五郎兵衛尉忠光が、鎌倉で御堂造営の人夫に紛れ、頼朝暗殺を狙い捕らえられた、といった事件が景清の行業と混同され、伝説が生じたのであろうと推察しています。

このように、勝願院は平家物語に登場する平景清の伝説と結びつけられ、歴史的な事実と伝説が入り混じった興味深い寺院でした。現在はその姿を新薬師寺の景清地蔵堂にとどめていますが、かつての場所や歴史を今に伝える貴重な存在です。

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