勿来関

なこその関とは

「なこその関」は、古代から歌枕として名高い関所の一つです。しかし、その所在地は諸説あり、存在自体を疑問視する意見すらあります。この記事では、福島県いわき市にある観光地「勿来の関」と区別するため、また、漢字表記の揺れを考慮して、本稿では「なこその関」と表記します。

語源

「なこそ」という言葉は、古語で「禁止」を表す「な～そ」に、動詞「来（く）」の未然形「こ」が組み合わさった「な来そ（こ）」に由来します。これは現代語で「来るな」という意味になります。

漢字表記

「なこそ」の漢字表記にはいくつかのバリエーションがあります。万葉仮名や平仮名の真名を用いた「名古曾」「名古曽」「奈古曽」の他、訓読みを当てた「名社」という表記もあります。また、漢文では「禁止」の意味で使われる「勿」を使い、「勿来」と表記し、「なこそ」と読ませることもあります。関所の名前であることから、「来」を「越」に置き換えた「勿越」「莫越」という表記も見られます。

関所の実態

「なこその関」は「関」と呼ばれてはいますが、一般的な関所とは異なり、古代の史料にはその存在を示す記録がほとんどありません。一般的には、白河関、念種関（鼠ヶ関とも）と共に「奥州三関」の一つとされていますが、「奥州三関」がこの三つの関所を指していたという確証もありません。

奈良時代に蝦夷の南下を防ぐ目的で設置されたという説もありますが、「なこそ」が「来るな」という意味であることからの推測に過ぎず、具体的な根拠は現在のところ見つかっていません。

所在地の謎

「なこその関」の正確な所在地は、現在でも特定されていません。

考古学的な視点

考古学的な発掘調査による有力な根拠は、今のところ発見されていません。

文学作品からの推測

文学作品による推定では、11世紀の『平中物語』を引用した能因が遠江国（現在の静岡県西部）に存在すると唱えた説があります。また、17世紀には西山宗因が紀行文の中で「なこその関を越て」磐城平藩領に入ったと記しており、現在の福島県いわき市とする説が有力視されています。

吉田松陰も『東北遊日記抄』で、現在のいわき市勿来町関田字関山付近を「勿来故関」と記録しています。しかし、「なこそ」という地名がこの周辺にあったという証拠はありません。また、菊多関の別名とする説もありますが、近年では区別されています。

歌枕として詠まれた和歌からは、陸奥国（東北地方の太平洋沿岸部）の海に近い山の上の情景がイメージされますが、和歌は必ずしも現地で詠まれるものではないため、歌からの場所の特定は難しいとされています。

その他の推定

陸奥国府・多賀城や松島丘陵の軍事的意味合い、江戸時代の絵図などを根拠に、宮城県宮城郡利府町森郷字名古曽に比定する説もあります。この場所は、奥大道と名古曽川（現在の勿来川）が交わる場所です。現在、この周辺には「なこその関」の説明看板や「勿来神社」の碑が設置されており、多賀城政庁跡も近くに存在します。

歌枕としての「なこその関」

「なこその関」は平安時代から近代にかけて、多くの歌人に詠まれてきました。125首もの短歌にその名が登場し、文学的な景観を形作っています。

観光地としての「勿来の関」

江戸時代初期に、現在の福島県いわき市勿来町関田字関山が「なこその関」に見立てられるようになり、観光地化が進みました。磐城平藩は、桜の植樹など、関跡に見立てた整備を行ってきました。

1889年（明治22年）に周辺の村が合併して窪田村となり、1897年（明治30年）には「勿来駅」が開設されたことを機に、1925年（大正14年）に勿来町が誕生しました。1927年（昭和2年）には「勿来関趾」の碑が建立されました。

勿来の関公園

1951年（昭和26年）に福島県立自然公園に指定され、1960年（昭和35年）に風致公園としての都市計画決定がなされました。1986年から1988年にかけて遊歩道や詩歌の小径などが整備され、1988年には「いわき市勿来関文学歴史館」が開館しました。2007年には平安貴族の邸宅を模した「勿来の関公園吹風殿」も開館し、現在は桜の名所として親しまれています。また、この地は、勿来砿を主力とした大日本炭砿会社の創立者である古賀春一の彰徳碑がある場所でもあります。

まとめ

「なこその関」は、古代からの歌枕としての歴史を持ち、その所在地は未だに特定されていません。文学作品や歴史的資料から様々な説が唱えられていますが、その謎は今もなお解き明かされていません。現代では、福島県いわき市にある「勿来の関」が観光地として親しまれていますが、古代の「なこその関」は依然として謎に包まれています。

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