北九州×クロス

『北九州×クロス』：地域の今を描き続けた6年間

NHK北九州放送局が、2012年度から2017年度までの足掛け6年間にわたり放送した地域情報番組が『北九州×クロス』です。2011年度まで親しまれた『北九州スペシャル』の後継として企画された本番組は、放送エリアである北九州地域の最新の話題や、地域が抱える様々な課題に光を当てました。

番組の大きな特色は、対象とするテーマを深く掘り下げるドキュメンタリーと、関係者や当事者をスタジオに招いて進行するトークパートによって構成されていた点にあります。わずか25分という限られた時間の中で、視聴者に濃密な内容を届けることを目指していました。また、北九州市出身者や、何らかの形で地域とゆかりのある著名人をゲストやナレーターとして積極的にキャスティングした点も特筆されます。初回放送で、AKB48の選抜メンバーに初めて入った北九州市出身の梅田彩佳さんを起用するなど、話題性も意識した番組作りが行われていました。

放送枠としては、基本的に福岡県域向けに放送されていた『特報フロンティア』（2012年度～2015年度）や『なるほど 実感報道ドドド!』（2016年度以降）の金曜夜の枠を差し替える形で本放送が行われました。再放送は、翌土曜日の『いちおし!九州沖縄』後半枠を差し替える形で行われたため、本来のブロックネット放送の一部が視聴できないというケースも生じました。

番組で取り上げられたテーマは多岐にわたります。初回放送では、梅田彩佳さんが子育てに悩む親たちの現状と、それを支えようとする人々を取材・対談する「苦しむ“親”を支えたい 梅田彩佳×親子問題」を放送。以降も、地域に根差した話題が数多く取り上げられました。

北九州が誇る「映画の街」としての側面も繰り返し特集されました。日本初のフィルム・コミッション設立や映画誘致の取り組みを描いた「“映画王国”北九州」では、地元出身の青山真治監督や羽住英一郎監督らが登場。また、「“映画の街”を売り込め」では、お笑いコンビのフルーツポンチ・村上健志さんがフィルム・コミッション担当課のハードな仕事に一日就業体験する模様を追いました。

スポーツ分野では、地元出身アスリートに焦点を当てた回が複数ありました。ロンドンパラリンピックに出場した車いすマラソン選手の洞ノ上浩太選手の挑戦に、大腸がんを克服したマラソン指導者・金哲彦さんが迫る「走れ!ロンドンへ」。ソチオリンピックに出場したモーグル選手、村田愛里咲さんの日々を追った回。さらに、リオデジャネイロオリンピック・パラリンピックを前に、メキシコ五輪銀メダリストの君原健二さんと金哲彦さんが対談し、ランナー人生を語り合った回も放送されました。地元サッカーチームであるギラヴァンツ北九州については、クラブ史上最高の成績を収めたシーズンの回顧や、新スタジアム完成によるJ1ライセンス取得への挑戦を描くなど、複数回にわたってその軌跡を追いかけました。

地域の文化や歴史、風習に迫る企画も人気を博しました。B級グルメの祭典「B-1グランプリ」の大都市初開催を前に、地元代表格「焼うどん」の秘密やイベント準備の舞台裏に迫った回。知られざる北九州名所の秘密を紹介する回では、門司区出身の芋洗坂係長さんが出演しました。労働者の街で育まれた文化「角打ち」の現状を伝える回や、地元在住イラストレーター黒田征太郎さんのイラスト集をたどる旅企画もありました。市制50周年記念企画では、AKBの梅田彩佳さんとタレントの中村有志さんが、北九州が生んだ歌について熱く語り合いました。

地域が抱える社会課題にも正面から向き合いました。東日本大震災からの避難者支援の現状と課題、特に北九州市独自の支援打ち切り後の避難者たちの動きを追った「”絆”の行方」。また、高齢者が安心して暮らせる住まいを持てない実態と対策を探る「”住宅クライシス”」では、木造アパート火災をきっかけに問題の根源に迫りました。男性の育児休業取得率が低い現状と、取得を促進する企業の取り組みを紹介し、男性育休について専門家と考えた回もありました。

都市の戦略やイベントをテーマにした回も見られました。かつての公害を克服し、環境技術でアジア市場に挑む可能性を探る「環境ビジネス最前線」。空き家問題解決を目指す「リノベーションスクール」の「北九州方式」に注目した「街よ、よみがえれ」。東京ガールズコレクションの誘致背景や、地元大学生がステージプロデュースに奮闘する姿を追った回。さらに、国際会議誘致体制を強化する市の戦略を描いた回もありました。

芸術やエンターテイメント分野では、北九州芸術劇場が手掛ける地域モチーフの舞台制作で、演出家ノゾエ征爾さんが街に滞在して創作する日々を追った回や、北九州を舞台にした地域ドラマの裏側を紹介する回などが放送されました。毎年恒例となった企画として、視聴者からの桜の思い出を映像と音楽で綴る「桜の思い出」シリーズも放送期間中に数回制作され、再現ドラマやアニメーションといった新たな手法も取り入れられました。

ユネスコ無形文化遺産に登録された戸畑祇園大山笠の魅力に迫る回など、地域の伝統文化も深く掘り下げました。最終年度には、再びJ2昇格を目指すギラヴァンツ北九州の新たな挑戦を描いた回で締めくくられました。6年間にわたり、『北九州×クロス』は地域の「今」を様々な角度から切り取り、その多様な姿を視聴者に届け続けた番組と言えるでしょう。

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