北木石

北木石（きたぎいし）

北木石は、岡山県笠岡諸島の北木島で産出される花崗岩の総称であり、その美しさと耐久性から古くから建築や石材として重用されてきました。

種類

北木石は、主に白色を基調とした中粒の黒雲母花崗岩で、「中目」、「瀬戸赤」、「瀬戸白」、「サビ石」の4種類があります。現在採掘されているのは「中目」と「瀬戸赤」の2種類です。かつては北木島に127箇所もの採石場がありましたが、安価な外国材や他産地の国内材に押され、採石業は衰退しました。現在は、「中目」と「瀬戸赤」をそれぞれ1社ずつが採掘を続けています。中でも「中目」を採掘する会社は、北木石材組合の初期メンバーで、100年を超える歴史を持っています。

特徴

北木石は、断層によって比較的大きな塊として存在しており、結晶化合体の分布状態が均一です。また、節理が発達しており、石の目が通っているため、10メートル以上の長尺材を切り出すことが可能です。石に粘りがあり、ノミの馴染みが良く加工しやすいのも特徴です。

かつては、加工のしやすさから石工に好まれていましたが、加工技術の発達により、現在では吸水率が低く経年変化の少ない細粒で硬い石材が主流となっています。しかし、墓相においては、現在でも北木石は特別な地位を確立しています。

利用

北木石の採石の歴史は古く、大阪城の石垣をはじめ、靖国神社の大鳥居、天皇陵の鳥居、日本銀行本館、皇族や貴族の邸宅など、数多くの建造物に使用されています。品質の良い大きな石が採れ、海運を利用した物流が発達していたため、国内の道路が整備される以前から全国的に販路が広がっていました。

墓石としての利用

戦前の国民的英雄である東郷平八郎や、歴代総理大臣の池田勇人、吉田茂、作家の夏目漱石、江戸川乱歩、川端康成などの墓地にも北木石が使用されています。特に、京都を中心とする近畿地区や京阪神エリアでは、建築物以上にお墓での需要が多く、由緒ある寺院の歴代住職の墓にも代々北木石が用いられています。近年では、和歌山県の高野山に建立されたキヤノン株式会社の社墓にも北木石が使用されました。

その一方で、昭和中期から後期にかけて採掘された山肌近くの石が、石不足のために墓石材として全国に出回ったことがあり、含有鉄分の錆による変色や風化が問題視されました。そのため、全国各地の墓地や霊園で見られる赤く変色した墓石には北木石が多く見られます。

歴史

近世

口伝によると、天正11年（1583年）の豊臣秀吉による大坂城築城の際に北木石が用いられたと伝えられています。寛永6年（1629年）には徳川家光によって大阪城桜門が建てられ、北木島で採石された巨石が「虎石」「竜石」として用いられました。

近代

明治時代には、日本銀行本店や支店、三井銀行京都支店、住友銀行船場支店など、多くの建造物に北木石が使用されました。1895年（明治28年）には、日本初の石丁場組合が北木島に設立されました。

大正時代から昭和初期にかけても、三越日本橋本店、明治神宮神宮橋、靖国神社石鳥居など、多くの建造物に北木石が用いられています。靖国神社石鳥居は、関東大震災の震度にも耐えうるように設計されました。

現代

戦後、採石業の機械化が進み、1953年（昭和28年）には石工養成所が設立されました。1970年（昭和45年）の日本万国博覧会（大阪万博）会場にも北木石が用いられています。

北木島の笠岡市立北木中学校には北木石記念室が設置されており、花崗岩の石材見本や、かつて採石場で使用された機械・道具類が収蔵・展示されています。2014年（平成26年）には、北木石の道具類が登録有形民俗文化財に登録されました。

2019年（令和元年）には、笠岡諸島の石文化を含む備讃諸島が日本遺産に認定され、北木石の丁場や石工用具などが構成文化財となっています。

北木石が使用された主な建築物・構造物

五条大橋（京都府京都市）
大阪城桜門（大阪府大阪市）
靖国神社石鳥居（東京都千代田区）
明治神宮神宮橋（東京都渋谷区）
日本銀行本店本館（東京都中央区）
明治生命館（東京都千代田区）
中国銀行本店（岡山県岡山市）
台湾銀行本店（台湾・台北市）
* 新京神社大鳥居（中国・吉林省長春市）

北木石は、その美しい石肌と優れた耐久性から、日本の歴史と文化を彩る貴重な石材として、現在も大切にされています。

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